出会いと別れの季節〜「駅」ソング特集

 震災に遭われた皆様に心よりお見舞い申し上げます。

 色々ありましたけど、季節はもう春。出会いと別れの季節です。春というと「卒業」ソングが定番ね。俺が大好きな卒業ソングといえば、なんといっても最初に思い出すのは斉藤由貴さんの「卒業」。特に2コーラス目のこのフレーズが大好きで。

 駅までの遠い道のりを はじめて黙って歩いたね
 反対のホームに 立つ二人
 時の列車がいま引き裂いた
    (「卒業」作詞:松本隆 1985年)

 まるでストップモーションで、向うのホームに佇むセーラー服の彼女の前を電車が走り抜けていく瞬間が映し出されるような、見事にビジュアライズされた歌詞。もう一歩近づくことができないままに別れの季節を迎えてしまった切なさが、この短い歌詞のなかに凝縮されているのよね。
 そうそう、今回は「卒業」ソングではなく、「駅」ソングの特集だったわ。お間違えなくね(笑)。
 出会いと別れ。その舞台となる恰好の場所・シチュエーションといえば、「駅」ということね。それが本題。斉藤さんの「卒業」を作詞した松本隆さん、駅を舞台にした別れの名曲がとても多いことで有名(かな?)なので、まずはそれらをズラッと紹介します。
 まず斉藤さんでもう1曲、駅ソングでは「情熱」がありますね。ガラスの鼓動(紙ジャケ+HQCD)(仮)

 屋根に哀しみ載せた列車の
 デッキに立ってあなたVサイン
 時計の陰の下で泣き笑いする 私を元気づけるように
   
 動き出す汽車 最後の握手
 まだほどけない 離せない
 情熱 情熱 愛が燃えてる
     (「情熱」作詞:松本隆 1985年)

 まるで映画の一場面を見ているようで。列車に乗って遠くに行く彼を見送る彼女。やがて列車は走り出し、彼女も列車を追って走り出す・・・という。でも実はね、このシチュエーション、松本さんのお家芸だったりするのだ。
 これが太田裕美さんの曲「銀のオルゴール」(「最後の一葉」B面)では、こんな風に。太田裕美の軌跡?First Quarter

 動き出す汽車のデッキに
 小走りに渡すオルゴール
 悲しみのウェディングマーチ
 あなたへの贈り物です
     (「銀のオルゴール」作詞:松本隆 1976年)

 さらにはビッグネーム、山口百恵さんにはこんな曲も書いているのです。「口約束」(「赤い絆」B面)。花ざかり

 粉雪降り積む私の肩に
 青いブレザー投げたあなた
 
 動き出す車輪の火花 硝子にすがって追う私
 「何も言うなよ」・・・それが口癖
 汚れた雪へと転ぶ私を 心配顔で振り向くあなた
     (「口約束」作詞:松本隆 1977年) 

 まだあるのよ。松本先生といえばこの人、聖子さんです。かつて“セイコ・ソングス”シリーズでも取り上げた名曲「Please don't go」。

 動いた列車のデッキで 腕時計 外すのね
 同じ時代(とき)生きた記念にと
 私に投げて最後に微笑んだ
     (「Please don't go」作詞:松本隆 1987年)

 ね?松本センセったら、やってくれるでしょ?最後の記念アイテムこそオルゴール、ブレザー、腕時計と三者三様だけど、列車のデッキに佇む彼とホームに残される彼女、走り出す列車まで、シチュエーションは同じ!この場面が相当お好きみたい。
 でもね、断っておくけど、みんなどれも凄くイイ曲ですから、念のため(笑)。
 セイコさんの「駅」ソングといえば、外せないのはもちろんこの曲。Pineapple(DVD付)

 春色の汽車に乗って 海に連れて行ってよ
 煙草の匂いのシャツに そっと寄り添うから
 
 四月の雨に降られて 駅のベンチに二人
 ほかに人影もなくて 不意に気まずくなる
     (「赤いスイートピー」作詞:松本隆 1982年)

 こちらには続編もありまして、これもまた良いのです。Citron(DVD付)

 アルバムの最後の色あせた押し花が
 海辺に誘うの

 駅員に頼んで写真撮ってもらった
 同じベンチにあなたがいないだけ
     (「続・赤いスイートピー」作詞:松本隆 1988年)

 どちらも赤いスイートピーが線路脇に咲く海辺の駅。のどかな眺めと主人公の心象風景の対比が瑞々しい感覚を呼び起こす、どちらも名曲よね。ところでこちらも実は、太田裕美さんの初期の作品「夕焼け」に似たようなシチュエーションが登場するのです。心が風邪をひいた日

 真夏が過ぎた海辺の駅で
 別れたの あなたと
 結んでた指も離れて
 汽車は秋へと 走り出したの
     (「夕焼け」作詞:松本隆 1975年)

 またもや、走り出す汽車のくだりも出てきたりして(笑)。
 さて、このままでは松本さんのセルフパクリ(?)を糾弾する企画になってしまいそうなので、ここらあたりで女王さまがたに登場していただきましょう。
 まずは竹内まりやさん。皆様ご存知、そのものズバリ「」です。Expressions (通常盤)

 ラッシュの人波にのまれて 消えていく 後ろ姿が
 やけに哀しく心に残る
 改札口を出る頃には 雨もやみかけた この街に
 ありふれた夜がやって来る
     (「駅」作詞:竹内まりや 1986年)

 ラッシュとか改札とか、日常ワードを使ってOL心をくすぐるのが上手いわねやっぱり。まりやさんったら。
 お次はユーミン。1982年発表の名盤『Pearl pierce』より「消息」。PEARL PIERCE

 向かい側 ホームの端に あのひとが立っていた
 雨降りの線路を隔て みずいろのセーターがうるんで
 
 呼べずに 呼べずに 時は去き
 電車はカーヴで煙った点になる
 愛して愛しているうちに
 あなたは私のグレイの汚染(しみ)になる 
     (「消息」作詞:松任谷由実 1982年)

 水色のセーターがグレイの染みになる、というあたり、このヒネった感覚がいかにもユーミンね。
 さて最後はみゆきさん。こちらも有名曲ですね。セカンドアルバム『あ・り・が・と・う』から「ホームにて」。ほのぼのとした曲調の中に、帰りたくても帰れない主人公の郷愁がじわじわと滲み出てきて胸がかきむしられるような作品。見事なみゆき節を味わいながら、今回は締めくくりとします。あ・り・が・と・う(紙ジャケット仕様)

 振り向けば 空色の汽車は いま ドアが閉まりかけて
 灯りともる窓の中では 帰りびとが笑う
  
 ふるさとは 走り続けた ホームの果て
 叩き続けた 窓ガラスの果て
 そして 手のひらに残るのは 白い煙と乗車券
  
 涙の数 ため息の数 
 溜まってゆく空色のキップ
 ネオンライトでは 燃やせない
 ふるさと行きの乗車券
     (「ホームにて」作詞:中島みゆき 1976年)