おすすめ本〜「プレイバック・制作ディレクター回想記」

 アニバーサリー企画もついにここまで来たか!みたいな感じ。歌謡曲の解説本は数あれど、アイドルとして活躍した一人の歌手にスポットを当てて、リリースした全ての曲をここまで詳しく解説した本は、初めてではないかしら(大手出版社では、という注釈付きだけどね)。
 そのアイドルは、そう、山口百恵さん。

プレイバック 制作ディレクター回想記 音楽「山口百恵」全軌跡

プレイバック 制作ディレクター回想記 音楽「山口百恵」全軌跡

 著者は、彼女の制作ディレクターだった川瀬泰雄氏。百恵さんがリリースした全楽曲の副読本とも言えるような内容で、何だかもう、百恵さんはすでにビートルズ級の扱いなのね(笑)。なんて思ったら、著者の川瀬さん自身がもともとビートルズマニアで『真実のビートルズサウンド』という著書も出されているそうな。うん、そういえば確かに百恵さんの曲の中にもサウンド的にビートルズの影響が感じられるものがある・・・かも(笑)。
 自らバンド活動の経験があって、ギタリストでもある川瀬氏が解説する百恵サウンドのすべて。もしあなたが、百恵をアルバム単位で何枚もコレクションしているくらいの大ファンで、この私のつたないブログを面白く感じてくださっている方なら、この本「プレイバック」は、超オススメ!
 百恵さんの曲の解説本としては、評論家・平岡正明氏の著書「山口百恵は菩薩である」(1979年)が有名で、これがある意味テキストのようになってしまっていたのだけど、その中での平岡氏の全曲解説は今振り返れば知識人の“オアソビ”のようなものだったのかもな、なんて思う。
 この「プレイバック」の方は、まさしく彼女の音楽を創ってきた当人が、レコーディングのエピソードから、サウンド作りのイメージや、百恵さんの歌い方やアレンジ面の聴き所などを細かく解説しているから、ある意味“ドキュメンタリー”なのね。これを読みながら1曲1曲を聴くと、30年以上前の曲なのに本当に新しい発見がいっぱいあって、何と言うのかな?そう、“臨場感”を楽しむことができるのよね。
 あとは、百恵さんと言えば酒井プロデューサーが有名だけど、あの方との確執めいた話なんかもさりげなく織り込まれていたり、1977年のロンドン録音盤『GOLDEN FLIGHT』に収録予定で録音されながら最後の段階でボツになった未発表曲が存在することなんかも書かれていたりして、“今だから明かせる”というゴシップ雑誌的な部分でもそれなりに楽しめたりする。
 それにしても百恵さんは本当に、スゴイ人だったのね。この本の中でも何度も出てくるのが「彼女がまだ○○才だというのをつい忘れていた」というような表現。活躍した僅か8年間、まわりのスタッフもその成長の速さに驚きの連続だったという。それにやっぱり、酒井Pを筆頭にスタッフが出す要求(無理難題)にもキッチリと答え出す勘の良さ・集中力、ずば抜けたプロ根性があったらしい。そんな努力型の天才・百恵さんは、それゆえ制作スタッフ皆に愛され、尊敬されていたということなのね。この本の出版こそが、その証明。
(オマケ)
 見よ、百恵さんのこの集中力。歌う女優、です。月並な表現だけど・・・。