時は過ぎにけり〜中島美嘉「Love Addict」

 最近、自分の中でこの曲がリバイバルしてまして。

 2003年4月発売、中島美嘉さんの7thシングル「Love Addict」。作編曲は当時アシッド・ジャズ等のクロスオーバーサウンドで業界をリードしていたMONDO GROSSO大沢伸一さん、作詞の方は美嘉ちゃん本人。
 あら〜、これがもう15年前の作品なのね・・・と今更タメ息。そして、シングル曲一曲のために時のアーティストに曲を発注して、レコーディングではジャズミュージシャンを集めてバックを固めるといった、こうした贅沢な音作りは今はもしかするともう、望めないかもしれないわね・・・と、また一つタメ息。
 2003年当時、まだまだ歌姫ブームが続く中、キンキン声が中心だった“じゃぱにーず・ディーバ”たちの中で、美嘉ちゃんはそのミステリアスな雰囲気とゴージャスなハスキー・ボイスで個性を発揮して、独自の地位を確立していたのよね。
 とは言えそもそも美嘉ちゃんの出自はというと、ソニーのオーディションなわけでね。フタを開ければ実のところ、同時進行で女優業なども続けてきた“アイドル・ディーバ”でもあったわけよね。そんなこともあってかその後の美嘉ちゃんの経歴を振り返れば、映画『NANA』や『バイオハザード』シリーズへの出演(ゾンビ役を熱演♡)、果ては森三中とのコラボ(おまけに近年はバレー選手との結婚と離婚・・・)まで、時を経るごとにどこか取っ散らかった印象になってしまっていて(苦笑)、やっぱりその辺も「アイドル」そのものだったりするわけよね。。。
 しかし「Love Addict」はやはり、そんな美嘉ちゃんが素材であったからこそ生まれた傑作でもあって、ソニーというレコード会社が、その将来性と埋蔵量を見込んだ中島美嘉という“素材”を、とにかく未完成なうちから猛プッシュして、様々なアーティストやミュージシャンの協力を得ながらスターに仕上げていくという、旧来からのショウビズ・システムの賜物であった、と思うのね。もしかするとそのシステムが正しく機能した最後の例なのかも知れない、なんて大袈裟にも思えてしまう。
 そうは言っても勿論ワタシ、近年の音楽作品のレベルが下がったと断言するつもりはないし、実際そうも思っていない。
 ただ、音楽を楽しむ環境がパッケージものから配信に移行する(薄利多売になる)中で、どうしても作る側としてはコストが確実に回収できる方向を選ばざるを得ない環境になってきていて、自作自演系として確固たる世界を確立して固定ファンを持つアーティストか、AKBやジャニ系のように“商法:ビジネス”として出来上がった売り方でしか勝負できなくなっていること(つまりはそうそうおカネをかけられなくなっていること)は、様々なメディアなどで多く耳にするところだったりする。
 そんな中で、デビュー当初から秋元康やら松本隆やら吉田美奈子伊秩弘将宮沢和史HYDEケツメイシ、果てはみゆきさんまで、錚々たる顔ぶれから曲提供を受けてきた美嘉ちゃんは、やっぱり“平成最後の女性アイドル”だったのでは、と思うのよね。
 「Love Addict」は、そんな、贅沢な時代の遺産。“未完の素材”に少し高いハードルを与えて、そこから生まれる化学反応によって新たな地平を切り開いていく。つまりはサプライズの“タネ”を計算づくで仕込んでいくこと。商業音楽に、そんな“遊び”と“刺激”が許されていた時代。
 ここでの美嘉ちゃんは、その期待に十分応えて、本格的なジャズ・ワルツのリズムで五線紙を上下に飛び回るフクザツなメロディーを実に見事に歌いこなして、まさにオンリーワンの世界をそこに作り上げている。これが、たとえば、MISIA? JUJU? 平原さん? だったら・・・当たり前すぎてここまでテンションの高い仕上がりにはならなかったのではないか、なんてことも思うのだ。そう、不安定で未完成だった、アイドルディーバ・美嘉ちゃんだったからこそ、この素晴らしさが、ある。それは確かだと思う。

 思えば今回のこのオハナシ、ワタシが頭に思い描いていた80年代のサンプルはこの人のこの曲だったのかもね。アイドルだからこその、軽々とハードルを越えたときの「突き抜け感のスゴさ」、という意味では。。。