邂逅、『SNAKEMAN SHOW』

 なんと流行にビンカンなワタシは、7年ぶりに、インフルエンザに感染してしまいました。7年前はB型でしたが今回はA型。水曜日に39度の高熱を発した後、やはり2日間は人事不省状態で、昨日金曜日からやっと熱が下がってきて、本日、土曜日になってようやく落ち着いてPCに向かえるほどに回復してきました。

 昨年末に骨折して、それから2カ月も待たずにインフル罹患と、このところ散々なワタシではありますが、何なのでしょう、此処まで来ると、そうヤセ我慢して先を急がずとも世の中大して変わらないよ、と神様から言われているような気がして、妙に落ち着いた心持ちでこの身に降りかかる試練を受け止めていたりしていましてね。嬉しいような侘しいような、何とも言えない境地であります。

 さて、人事不省とは言いながら、横になりながらも高熱時独特の覚醒感といいますか、現実と夢の中を長い時間彷徨う中で、いざパッと目が覚めたときに独りきりでベッドの中にいるその時間が、酷く絶望的に思えてくる瞬間があったりするのです。辛くて眠れないわ、もう悪夢は見たくないわ、でも起き上がるのはもっと辛いわ・・・。そんな感じで。

 そこで、無音で真っ暗な部屋をせめて「音」で満たせば少しはマシかとボヤけたアタマで思いつきまして。重い身体を起こしてベッドサイドのCDラックから無意識に取り出したのがこのCD。『SNAKEMAN SHOW(スネークマンショー(急いで口で吸え))』。いや実は「無意識に」というのは辛い身体が思い込ませたウソ。本当はこんな時だからこそ、滅多に聴けないCDにしようと、CDラックの奥底からしっかりとこの作品を選んでCDプレーヤーのトレーにセットする、普段通りの私がしっかりいまして。そう、重病のときは自分がいくつもの自分に分裂したりするのです。

スネークマンショー (急いで口で吸え!)

スネークマンショー (急いで口で吸え!)

 

 さて、ここからはこのアルバムの話題。

 1981年、ワタシが高校2年生(きゃあ!)のときに発売されたこのアルバム。当時は本当によく聴きましたわ。高校時代のブラバンの合宿(実はワタシ、ブラバン出身です)にウケ狙いでカセットテープを持って行ったら、当時バンドをやっていた同学年のドラム男子がこのアルバムの収録曲のいくつかをえらく気に入って、合宿中何度もリピートしていたのを思い出したのね。

 御存じない方のためにこのアルバムの構成をご紹介しますと、当時の人気ラジオ番組「スネークマンショー」(DJはあの小林克也さん・伊武雅刀さん)をそのまま再現した内容で、二人が繰り出すトーク(ギャグ)と、その間にかかる音楽が交互に出てくるような形になっているのね。

 正直、当時、桑原茂一選曲のイカした曲たちの間に挟まった本来の“メイン”であるSNAKEMAN SHOWのギャグはどこか、「フフッ」と口角の片方を上げて笑う程度が似合う独特の毒とシニカルさのある笑いなので、「お笑い」を求めてこのアルバムを聴こうとするとキツイように思えたのだけど、今回、10代のあの頃に聴いた時より遥かに、彼らのギャグが持つ独特の「旨味(のようなもの)」がわかってきたような気がしたのは、高熱でワタシの頭の中が少しラリっていただけではないことは確かで(汗)。40年近く経って、この鮮度で聴けるギャグっていうのも、もしかしたらスゴイのかもしれませんわ。だからこそ当時の音楽シーンを(今も?ですかね?)先導していたYMOが、大ヒットした『ソリッド・ステイト・サバイバー』という傑作のあとでいち早く彼ら(スネークマンショー)をフィーチャーした『増殖』というアルバム(正直、売上の割りには評価が低かったように記憶している)を作るほど大胆なことをしたのかもね。 

  さて一方の収録曲は、高熱で朦朧とした頭(耳)にも、一時的に頭の中の靄がパーッと晴れるような、カッコいい曲ばかりなことに、改めて気づいたのよね。

 YMOの「開け心」は、思いのほかホットな高橋幸宏のドラムに乗せて細野&坂本のメロディーが踊りまくる、かの“エレクトリカル・パレード”を5年先取りしたナンバー。

 SHEENA&the ROKKETSの蔵出し曲「レモンティー」は、文句なし痛快なロケンローで。 

 そして思い切りポップで妖しいSANDIIの「JIMMY MACK」は、いかにも細野さんが作りました的なサウンド。当時も好きだったけれど、その後聖子ファンになったワタクシメとしては今や「天キス」的に聴けたりも(?)したりして。

 トノヴァンこと加藤和彦氏がDOCTOR KESSELER名義で演奏する「メケ・メケ」は、高校生の頃は大キライな曲(失礼!)だったけれど、今聴くとその突き抜け感と言うか、文化の円熟・爛熟を極めたあとの“エブリシング・OK”的な退廃観が堪らなく素敵に聴こえてきて。ワタシもオトナなりましたわ。

 そして、極めつけが、トリに登場する画期的なラップ・ソング「咲坂と桃内のごきげんいかがワン・ツゥ・スリー」。これ、当時も大好きだったけれど、久しぶりに風邪っぴきのベッドの中で聴きながらも思わずリズムに合わせてつま先を動かしているワタシが(笑)。演奏者がユー・アンド・ミー・オルガスムス・オーケストラというおちょくったネーミングなのも最高だし、小林克也さん、伊武雅刀さんという、いまやそれぞれの分野でビッグネームのお二人が美声を存分に生かしながらもノリノリで歌っている(語っている?)このテンションがなんとも堪らないのです。基本、四分音符の単調なリズムパターンの日本語の中に、カタカナ・ニホンゴが混じったときの独特のリズムのうねりがクセになるこの曲。エンドレスな快感、スルメ的なリピート感は40年を経ても健在だったのがオドロキで。

 この後、脳内麻薬がたっぷり分泌されて、再びまどろみの中に旅立ったワタシ。。


「スネークマンショー」-「咲坂と桃内のごきげんいかが1・2・3」