2019年8月、映画三昧でエネルギー補給

今年は春以降、個人的にとても忙しい日々を過ごしてきたのですが、この8月は土曜日が5回あることもあってか、ことのほかゆったりと過ごせる週末が多く、少しずつですが自分らしさを取り戻せているような気がして、それがとても嬉しいのです。

独りきりでは生きていけないことはわかっていても、やはりひとりの時間にこそ、自分が生きていることの意味が強く感じられるような気がします。日常社会の波の中でダメージを受けた部分を補修して、あるいは自分の至らなかった部分を少しだけ軌道修正したりして、また荒波に漕ぎだすための大切なエネルギーを補給する時間。そんな、誰にも邪魔されないひとりきりの時間が、ワタシには不可欠なのだと、あらためて感じた次第です。

  

そしてこの8月、劇場で映画を観られる機会にも恵まれまして、なんと3本も、観てきました。今回はそれらをちょっとだけ紹介させて頂きます。

まずは、話題作ですね。新海誠さんの『天気の子』。多くの若者たちに混じって、ひとり、隅っこの席で(汗)観てきました。

新海誠監督作品 天気の子 公式ビジュアルガイド

監督のインタビュー記事を読んで、「セカイ系 - Wikipedia」とかいう言葉も初めて知ったのですけれど、確かに、登場人物周辺のエピソードではクドイくらいディテールにこだわりながら、いつの間にやらストーリーは主人公を中心に、世界を巻き込むほどのスゴイ展開に進んでいるこの感じ、ジブリ系の映画が作品を通じて常に大上段に構えたメッセージを送り出してきたことを横目に、「自分たちはそんなに恩着せがましい大袈裟なこと、考えてないよ」という風に最初から言い訳しているような、"戦わない"姿勢を示す一種の自虐的なカテゴリー付けのような気もしました。

この映画も、どこまでも「美しい東京の(理想)風景」をバックに、無邪気なほどに純愛に突き進む少年を主人公に、前作「君の名は」を遥かに超えるスピーディーかつファンタジック(悪く言えば荒唐無稽)な展開で、55歳のワタシにはストーリーについていくのがやっと(苦笑)だったりもしたのですが、そんな怒涛の展開の中にあって、まるでこの世界が変わってしまったとしても(東京の大半が水に沈んでしまったとしても)結局は、"軽々と毎日を生き続けていく"主人公たちのさりげない逞しさに、らせん状に急転回を続ける「今」という時代に生きる私たち、ましてこの時期に多感な青年期を迎えている若者たちは、まさに次の世を生きるための「ヒトとしての進化形」に向かっているのかも知れない、なんて大袈裟なことを勝手に考えたりしてしまいました。

そんな意味でワタシはこの作品、よくも悪くも、「2019年という"いま"」を映し出している作品のように思いました。

 

続いては、単館系作品の『メランコリック』。

映画『メランコリック』劇場パンフレット

 第31回東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門監督賞受賞作であり、また昨年、あの話題作「カメラを止めるな!」が日本でヒットする前に観客賞2位を受賞したという「ウディネ・ファーイースト映画祭」で新人監督作品賞を受賞ということで、期待感いっぱいで観た作品。

東大卒ニートのバイト先の銭湯が、実は夜中、人を殺す場所として貸し出されていた、というサスペンスタッチの設定から、物語が進むにつれて次第にシュールかつブラックなコメディ要素が増していき、最後はホロリとさせたりもしてくれる。このあたりの「食べているうちに味の変わるガム」感が、「カメ止め」に結び付けられてのプロモ展開に繋がったのでしょうね。

さすがに痛快ドンデン返し一発勝負の「カメ止め」ほどのパンチ力はなかったものの、脚本が良く練られた、期待に違わぬ面白い映画でした!役者陣も芸達者揃いで、インディーズ感漂う作りが魅力だった「カメ止め」に比べて、映画としての完成度はこちらの方が上のように思いました。

日本映画、確実に面白くなっていますね。まだ上映されているようですので、機会がありましたら是非見てみて下さい。映画ファンのあなたにオススメ。

 

さて、3本目もマイナー映画でして、ジャズ・ピアニストBill Evansの生涯を追ったドキュメント『ビル・エヴァンス タイム・リメンバード』でした。

ソングス・オン『タイム・リメンバード』

ワタシ、大学生の頃に少しジャズをかじったりしていまして、その頃からジャズ系のアルバムでずっと"No1作品"として愛聴しているのが彼、ビル・エヴァンスの作品『ワルツ・フォー・デビー』なのです。このブログでも何度か取り上げさせて頂きましたが、私にとって「歌詞のない音楽」がこれほどまでに饒舌で心に響くものであることを初めて教えてくれたアルバムでもあります。

ワルツ・フォー・デビイ(+4)

ピアノの音は、人間が作り出した最も美しい音色のひとつであると思います。それを魔法のように操り、究極の「美」をひたすら追い続けた、彼(Bill Evans)の人生。

その人生は、麻薬あり、家庭崩壊ありの、一般的にみれば破綻したものでもあったのですが、天賦の才能を与えられた者が究極の「美」と対峙したとき、それら"まっとうな人生で求められるべき幸せ"など、もしかすると些末なものでしかなかったのかもしれない。

そんなことを考えさせられました。

晩年期の演奏シーンで、麻薬で心も身もボロボロになってさえ、その指先からこぼれ出す音は美しく研ぎ澄まされていたことが奇跡のようであり、またそれが宿命のようにも感じられて、とても切なくもありました。

彼のピアノの音色には、言霊が宿り、色彩が宿り、そして何より深い部分で我々の心を揺さぶる「大いなる魂」が宿っていた。そんな気がしています。

誰にでもオススメできる映画ではありませんが(残念ながら上映も終了したようです)、最後に動画を張らせて頂きます。

この素晴らしい音楽を一人でも多くの方に知って頂きたくて。


Bill Evans - Waltz For Debby