岩崎宏美『思秋期から・・男と女』

hiroc-fontana2006-07-23

 今回は、もうひとりのヒロミさん。 
 これは岩崎宏美、5枚目のオリジナル・アルバムで、77年10月発売。岩崎さんというと、70年代後半の筒美系女性歌手としては太田裕美さんと双璧を成す存在だ。俺としてはどうしても大好きな太田さんのライバル・敵キャラ(笑)的捉え方をしてしまいがちな存在ではあったんだけど、そこは初期の筒美作品群の圧倒的完成度(「未来」「ドリーム」なんかが大好き)を前に、敢えて抗う理由も見当たらず、両ヒロミを同時に応援していたような格好であった。この二人の場合、作家がかぶっている事もあって「百恵VS淳子」や「聖子VS明菜」のように明確な対立構図が見えづらいし、双方とも親しみやすいキャラだったから、俺みたいに同時進行で応援していたファンも少なくないようだ。アンテナサイト「ナツメロ茶店」の管理人さんも、そんな両ヒロミファンの一人だったようだが、その管理人・あゆむさんもオススメのこのアルバム。
 俺にとって岩崎さんはいつも超人的に巧い反面、その声はどちらかと言うと暑苦しいと言うか、押し付けがましいというか、そんな印象があって、ベスト盤以外アルバムレベルでは今までほとんど聴いたことがなかった。なんだかしんどそうで。アルバム中心で聴いていた太田裕美さんとは正反対の聴き方だったわけね。
 そんなわけで、実はこのアルバムも手に入れたのはつい最近のこと。そして一聴して、すぐに気に入ってしまった。ほとんどの曲で地声とファルセットを行ったり来たり、当時はまだ20才前ながら驚異的なボーカルテクニックを聴かせてくれる宏美さん、まさに油の乗り切った頃の彼女が封じ込められている感じだ。彼女のアルバムで最高傑作との声が多いのもうなづける出来栄え。
 タイトルどおり時期的にはシングル「思秋期」の頃なんだけど、彼女の声が一番重たいのがその「思秋期」で、あとは終始肩の力が抜けたような伸びやかで表情豊かなボーカルを聴かせてくれている。特徴的なのは、タイトルのイメージとは裏腹にメジャーキイのミディアムナンバー中心である点で、それがこの作品集にさらりとした聴き易さを与えている。全体に近年の宏美さんのイメージに近い、しっとりとしたオトナの印象を持ったアルバム。
 全曲の作詞が阿久悠、作曲は三木たかし・川口真・大野克夫が4曲づつ担当した計12曲。この作家陣はそれぞれ同年の岩崎宏美のシングル「悲恋白書」「熱帯魚」「思秋期」を担当した布陣だ。そのうちシングルではセールス的に最も振るわなかった(「悲恋白書」の)大野克夫が、アルバム提供曲では名曲揃いの大健闘をしている。8分の6拍子のゆったりしたテンポが心地良い「ピアノ弾きが泣かせた」、ウェルカム〜ウェルカムというサビが何とも優美な「ウェルカム・ホテル」、アルバムラストを飾るハイセンスなメロディーの名曲「BOO BOO」。その他にも宏美さんの伸びやかなボーカルが活きた三木たかし作品「恋夏期」、川口作品では「♪ロッキンチェアー」というサビが面白い「煙草の匂いがする」や、バラード「メランコリー・ジュース」など佳曲が揃っている。筒美作品を離れてもこれほど充実した作品を発表していた岩崎宏美さんは、この時期にもはや太田裕美さんとは完全に別な方向性を見つけて成功していたというわけだ。
 これを機に宏美さんの昔のアルバムも少しづつ聴いてみようか、とも思うのだが、残念ながら廃盤・未CD化作品も多い模様。もったいないね。