映画『ロケットマン』と、”ボヘミアン"の影

ロケットマン (オリジナル・サウンドトラック)

ロケットマン (オリジナル・サウンドトラック)

 

ここのところ映画づいてるワタシ。今回は『ロケットマン』。

さて昨年の大ヒットと言えば、『ボヘミアンラプソディ』。ボヘミアン・ラプソディ (字幕版)

ともに70年代にデビューした実在するイギリス出身のアーティストの伝記的映画。そして主人公はゲイであり、その生涯は華やかな表向きとは裏腹に苦悩に満ちていた。おまけに2本の映画の監督は同一人物(デクスター・フレッチャー)でもあったり。

どうしても比較されてしまうであろうこの2本の映画。

先日、『ロケットマン』を観ながら、途中で私は知らず知らずのうちに『ボヘミアンラプソディ』との相違点、それも、今回観ているロケットマンが"優っている点"を一つでも見つけたい、そんな風に観ている自分に気づいて、少し後ろめたい気持ちになった。
エルトン・ジョンは10代の頃からリスペクトしてきたアーティストだったからだ。

でも残念ながら、最後まで私の頭から『ボヘミアンラプソディ』の影は離れないまま、『ロケットマン』の上映は終わってしまった。

エルトンファンの私でさえそうなのだから、あなたがもし、彼のことを良く知らないまま、『ボヘミアンラプソディ』で得た感動の再体験を求めてこの映画を選んだとしたら、やはりどこか物足りなさを感じてしまっただろう。この素晴らしいミュージカル映画の数少ないマイナスポイントを挙げるとすれば、まず第一に、「このタイミングで公開されてしまったこと」、それに尽きると思う。

ここまで、『ロケットマンがまるで『ボヘミアンラプソディ』の二番煎じのように書いてしまったが、実は全く違ったつくりの映画である。

ロケットマン』は、事実を元に構成した正真正銘のミュージカル映画であり、ライブやレコーディングでの演奏場面を忠実に再現した『ボヘミアンラプソディ』とは、音楽作品の扱い方が全く違っている。ミュージカルという構成上、シチュエーションのデフォルメや過度な美的演出は言うまでもなく、劇中曲のリリース順とストーリー上の年代は殆どリンクしていない。

ボヘミアンラプソディ』のクライマックスはいうまでもなくラストシーンのライブ・エイドでのフレディの生涯最高のパフォーマンスシーンであって、物語はそこに向かって一直線に盛り上がりを見せていく。それが多くの観客の感動を呼んだのだと思う。一方、『ロケットマン』では、都度差し込まれる曲の歌詞とエルトンの心情がとても深いリンクを見せていて、エルトンファンにとっては、聞き慣れた名曲の数々が新しい意味を持って(と言うよりむしろ、本来の歌詞の意味合いはこう言う事だったのか、という新鮮な驚きとともに)迫ってきて、ミュージカルシーンの数々はこの映画のまさしくハイライトだった。

大通りで少年時代のエルトンが歌い踊る「The Bitch Is Back」。

心の通わない家族たちがそれぞれの想いを抱えて歌う「I WANT LOVE」。

まさに土曜の夜のバカ騒ぎがワンカットの演出で見事に映像化された「Saturday Night's Alright For Fighting」。 


『ロケットマン』本編映像|「SATURDAY NIGHT’S ALL RIGHT FOR FIGHTING/土曜の夜は僕の生きがい」ミュージカルシーン

ソウルメイト・バーニートーピンとの運命的な出会いが結晶した瞬間としてピアノ一本で印象的に歌われる「Your Song」。

ステージのエルトンとライブ会場が音楽でスパークした瞬間、まさしく皆が"宙を舞う"「Crocodile Rock」。

遥か宇宙に飛ぶのではなく、深く水底に沈みゆくエルトンが、彼=ロケットマンの孤独を切々と歌い上げる「Rocket Man」。

バーニーとの関係が崩れ始めた悲しみに嘆くシーンでの「Sorry Seems To Be The Hardest Word」。

そしてエルトン復活の象徴として、当時のハチャメチャなPVをそのまま、見事に再現した「I'm Still Standing」。

(※これはそのオリジナル版。)


Elton John - I'm Still Standing (Remastered 2016 / Lyric Video)

常にどこか内省的で文学的な深みを持つバーニーの歌詞と、ポップスの体裁を取りながらも格調高い香りを放つエルトンのメロディーのコンビネーション。そこから生み出される奇跡の数々。

エルトンの曲を愛し、彼のこれまでの半生を知っている者にとって、これらのミュージカルシーンはどんなセリフよりも胸に迫るものがあった。

そして演技と歌(すべて本人歌唱)で見事にElton Johnになり切った主役のTaron Egerton(実物より遥かにハンサムとはいえ)の素晴らしさは言うまでもなく、脇を固める共演者たちもそれぞれ印象的で(hiroc-fontana的には”心の無い母親”役のBryce Dallas Howardの無表情演技がツボ)、ファンの贔屓目を差し引いても間違いなく良作と言えると思う。

エルトンファンにはバリオススメ、ミュージカル映画を愛するすべての人にオススメ。ワタシ、ブルーレイが出たらこれ、きっと買います。

rocketman.jp