おすすめ本〜「ルポ 貧困大国アメリカ」

ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)

ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)

 ニホンのアメリカ化を憂う人々は少なくないけれど、口ではそうは言ってもやっぱり多くの日本人にとってアメリカはいまだに「自由の国」であり「憧れの国」なんだと思う。正直、俺の中にもアメリカに対するどこかフンワリとした憧れが燻っている気がする。
 アメリカン・ドリーム。誰にでも成功するチャンスがある国、それがアメリカ。
 でもこう書くと、気づくでしょ?そう、コイズミやアベくんが呪文のように唱えてた「カイカク」。規制緩和。民間の活力。自由な競争。努力した人が報われる社会へ。彼らのその理想に最も近い国が、アメリカ、だったのは間違いない。
 実際にテレビで見るアメリカは(そのほとんどはニューヨークだったりビバリーヒルズだったりするわけだけど)、今も、いつでも、なるほどオシャレで新しくて活力に溢れている国のように見える。でも、本当にそうなのか。
 ニホンとアメリカを行き来しながらレポートしている堤さんの、この著書にあるようなアメリカを、日本の人々のいったいどれほどの人が知っている(あるいは知ろうとしている)のだろうか。
 公的な医療支援が破綻しているために、一度大きな病気に罹ったら、一気に破産するかもしれない恐怖。貧しくても社会に役立ちたい一心で、大学に通うための奨学金を得ても、高収入の職業にありつけなければ一生重い借金に苦しまなければならない恐怖。災害復旧活動の民営化によって、災害が起きても国から救済してもらえない恐怖。。。。
 行過ぎた規制緩和、民営化、自由競争、それらのおかげでいま、アメリカ人の多くは厳しい競争社会の中で、いつ「勝ち組」からこぼれ落ちるかわからない恐怖の中で暮らしているのだ。「勝ち組」から一度すべり落ちたら、そこから這い上がるチャンスはほとんどない。そんな恐怖と隣り合わせに生きている人々。それは「自由」というものを理想化し、それを最高の価値として妄信してきたアメリカという国がたどり着いた当然の帰着だったのかもしれない。そうして得たはずの「自由」のもとで人々は今、それを失う恐怖に怯え、日々闘わざるを得なくなっているのだ。どこまで豊かになっても、成功しても、幸せに思えない生き地獄のような世界。
 自分の自由を守るために(自分が生き残るために)必死になる。がゆえに、その横で他人が貧困に落ちていっても構わない。いや、そんなことには無関心になる。それが、自由主義社会アメリカの現実なのだと思う。そう、これはもう目前に迫っている(足を踏み入れている)日本の現実でもあるのだ。
 著者は堤未果さん。今、リベラル派や護憲派の間で注目されている、とても美しい女性だ。彼女はそんなアメリカの現実を「5年後の日本だ」と言って警鐘を鳴らしつつ、女性らしい優しさで「そんなアメリカの中にも希望がある」と言う。一般的なアメリカ人の中には、直面している現実に異を唱え、慎ましく暮らし、平和に共存する社会に価値を求める人々は決して少なくないのだ、と言うのだ。
 人々の間にそうした「思い」が残る限り、我々は踏みとどまれる、そう思いたい。