「コンプリート」の誘惑

 先日の「岩崎良美」の回で、トップにリンクさせたCDは「「岩崎良美」SINGLESコンプリート」というタイトルの2007年発売のベスト盤だったのだけど、最近になってやっと、こうした完全版のベストものが出るようになってきたのは喜ばしい反面、ちょっと複雑。というのは、実は俺が持っている良美たんのCDは2001年発売のベストで、それにはスマッシュヒットした名曲「愛してモナムール」が収録されていなくて、何だかずっと消化不良な感じがしてたのよね。だから、こうした「コンプリート盤」が出されちゃうと、ちょっと悔しいわけ。出せるなら6年前に出しとけよ!みたいな感じね。
 多かれ少なかれ、音楽ファンには、そんな経験があると思う。ベスト盤って、もともとヒットの数が少ない人や現役時代が短い人ならばヒット曲をすべて網羅した完全版は容易く出せるのだろうけど、いわゆる「ヒット歌手」の範疇に入る人になっちゃうと、高価でレアなCD−BOXを入手しない限り、どこか物足りない選曲のベスト盤を無駄を承知で何枚か買い揃えないと、お目当ての曲を全部集められなかったりするのよね。
 不思議なのは、そうして濫発されるお手ごろなベスト盤ってのは、なぜか必ずといっていいほど「その歌手とっては代表曲ではないけれどファンには人気のある隠れた名曲」が何曲か、抜けていたりする物足りない選曲なのよね。もちろん、芸能活動40ウン周年とかいうような演歌勢の大御所、五木さんとか八代さんとか森さんとかは、長いことヒットチャートを賑わしていた時期の曲と、大御所として年に1枚くらいのペースでじっくり売っている近年の曲とをうまい具合にブレンドしてベスト盤を作ろうとすれば、どうしてもボロボロと「中ヒット」クラスの名曲がこぼれていっちゃうのはわかるのだけど。シングルでも100曲以上あったりするわけだから、これはしようがないとして。
 でもね、ここからはちょっとファンにしかわからないマニアックなハナシになるけれど、たとえば80年代アイドル良美たんの場合、アイドルとして発表したシングル24枚のうち、ベスト盤に16曲が収録されているとするよね。その中で、チャート25位まで上がった「愛してモナムール」が削られて、最高位94位に終わった「ヨコハマHeadlight」がベストに収録されたりするわけよ。意味がわかんないわけ。70年代アイドルではたとえばダブルヒロミで言うと、姉の岩崎ヒロリンの場合、「ファンタジー」「想い出の樹の下で」「あざやかな場面」あたりが、人気曲なわりにベスト物からの「仲間はずれちゃん」常連。太田裕美さんで言えば、最近の1枚ものベストからはなぜか80年代のスマッシュヒット「南風」が、ほとんどいつも、仲間はずれちゃん。これには作曲家の印税のバランスとか、ふか〜い事情があるのかしらね?次のベスト盤に期待をつなぐための作戦?それとも、タダのイジワル(笑)?
 百恵さんでは長いこと80年のシングル「謝肉祭」が仲間はずれにされていたのだけど、これは歌詞の「ジプシー」という言葉が差別用語の可能性アリということで、レコード会社が勝手に収録を自粛しちゃったらしい。そのテの「放送禁止歌」が収録されないというのは、また別のハナシだけどね。キョンキョンの「クライマックスご一緒に」の場合、あんみつ姫名義でのリリースがたたって仲間はずれ。これもまた別なハナシかな。
 その点、アキナとかミポリンとかから始まって、最近のアーティストはほとんどがそうだけど、デビュー当初から定期的にシングル・コレクションを番号付きで律儀にリリースしてくれる人たちが増えてきたから、曲のダブりも取りこぼしもなくていいよね。ただその場合、曲が売れなくなると、新しいシングルコレクションが出てもだんだんとショップの棚の隅っこに置かれるようになっちゃったりして、それはそれで辛いものがありそうだけど(笑)。
 そんなわけで、俺としては最近よく聴く「コンプリート」なる言葉にはちょっと弱くて、今まで聴けなかったあの隠れた名曲が聴けるかも、というだけで、触手が伸びちゃうのよね。何だか手を変え品を変え、のレコード会社の術中にまんまとはまっているのかもね。

           手を変え品を変え、買え!てか!↓MYこれ!クション 岩崎良美「岩崎良美」SINGLESコンプリート