おすすめ本〜「霞ヶ関埋蔵金男が明かす「お国の経済」」高橋洋一著

霞が関埋蔵金男が明かす「お国の経済」 (文春新書)

霞が関埋蔵金男が明かす「お国の経済」 (文春新書)

 著者は東大理学部卒の元財務官僚で、小泉政権のもと、竹中の「知恵袋」として重用された人物ということなので、最初はかなり構えて読んだのだが、「あ〜、彼らがしようとしていたカイカクって、こういうことだったのか!」と納得させられる部分も正直多くて、最後までとても興味深く読めた。エリート特有の、全能感に支配された断定口調が鼻持ちならない感じがして、ちょっとイヤなのだけどね(笑)。
 この人にかかると、たとえば金融・財政では (1)道路特定財源は不要だが、環境負荷の高いガソリンへの課税は必要。 (2)公共事業は景気対策としては無意味である。 (3)CPIがプラス1程度の日本はいまだデフレであり、金融緩和局面である。 以上が「(普通の国のでは)常識である」と断言しちゃう。
 不況を長引かせた原因は無意味な公共事業を続けたことと、福井元日銀総裁がデフレ下であわてて金融引き締めに走った失敗が大きいのだという。あわせて、その「大失策」の責任をいまだウヤムヤにしたまま誰も追求できないのは、日銀の独立性がこの国では実質上確保されていないから、と。うん、俺も確かにそう思う。おまけに、日銀には「金融引き締めをしたら勝ちという文化、ばかみたいなDNAがある」とバッサリ。
 また、日銀の対抗軸としての存在である財務省については、景気が拡大して歳入が自然増になると、さまざまな歳出の要望に対して、それを抑えるための調整を財務省の采配で進めなくてはならないので、景気拡大は望まないという。景気拡大より現状維持を望み、緊縮財政と増税への志向が強いのだ、という。増税は国会で決められるから、その責任はすべて「政治家」に帰着するからだ。つまり責任のがれ。事実だとしたら、なんとズル賢いことか。要は、このズル賢い官僚に操られている「官僚内閣制」政治こそ、諸悪の根源であるというわけ。うん、確かにそうかもしれない。
 官僚がつくる「ペーパー」、これによって議員は予め官僚に説得されてコントロールされてしまう。冬柴ザ・ハットが国会答弁で官僚寄りの発言に終始してブーイングを浴びたのもこれがあるわけね。ところで皆さん、「完全民営化する」と「完全民営化する」、この違い、わかりますか?この辺のシカケが官僚たちの常套手段だそうで、本編にこのタネ明かしがあるのだけど、本当に思わず笑っちゃうくらいの狡猾さを、彼ら官僚は持っているようだ。まあ、この著者自身、財務省ではアウトサイダーだったらしくて、冷や水飲まされ続けた怨み節、も多少入っているのだろうけどね。ところで公務員改革、その中で忘れがちであるけど重要なのが「国会議員と公務員の接触制限」だという主張、これにはhiroc-fontanaも納得するところ。
 さて、結論。何事もスパッと決め付けるこの著者の口調は、コイズミの「ワンフレーズ」とすごく相性が良かったのかもしれないな、なんて思う。でも、おそらくコイズミは「竹中の知恵袋」であったこの著者から話を聞かされても、彼の言わんとしていたことの1割も、理解できていなかったのではないだろうか(著者は、コイズミさんは「直感で」理解していたようだと述懐している)。コイズミがしっかりと理解し、この路線を徹底してやり遂げていたならば、もしかしたらホントーに日本の経済はもっと良くなっていたのかもしれないと、この本を読んでそう思わされたところがある。
 しかし結果として、コイズミカイカクは、大失敗に終わったのだ。コイズミは、このカイカクの目指すところ、それを十分理解できなかったために、何もかも中途半端に終えてしまった。(中途半端な放棄は、竹中にもいえることだ。)だからこそ、結果として余計にこの国にとってはダメージが大きかったわけだ。むしろこれなら、手をつけないほうがマシなくらいに。
 そして、無力な国民だけに痛みを押し付け、官僚・族議員・大企業など「本当の抵抗勢力」には何らカイカクの手を及ぼせなかったということだ。いまだに本人は本気で「カイカクの旗手」を自認しているあたり、彼はこのカイカクの意味することが何であり、それが失敗であったことさえわかっていない、ということを如実に物語っている気がする。
 この本には霞ヶ関と永田町の問題点とその対策のことばかりが書いてあって、商店街や農村、工場で働く日本人が、どうすれば将来的に幸せになれるのか、ビジョンは何一つ提示されていない。ただ、あの当時、コイズミ・竹中路線が当初進めようとしていたことはこういうことだったのか、ということは何となくわかる。
 やっぱり、国民不在の、冷たいシステム論に過ぎなかったのね、ということだけど。
 薄くてあっという間に読めるので、21世紀のわが国の不毛を検証してみたい方にオススメです。
 あ、そうそう、著者の高橋氏、最近はこんな動きを見せているみたい。これも注目ね。

官僚OBらが「脱藩官僚の会」、天下り全廃など提言
 霞が関OBらが「官僚国家日本を変える元官僚の会脱藩官僚の会)」を設立する。霞が関族議員主導が目立つ政治の改革が目的で、発起人代表は江田憲司衆院議員(無所属、元通商産業省)。高橋洋一東洋大教授(元財務省)、寺脇研京都造形芸術大教授(元文部科学省)らが名を連ねる。政党色をできるだけ排除し、天下り全面禁止と税金の無駄一掃など霞が関改革を打ち出す方針だ。
 発起人ら8人が近く記者会見して、中央省庁出身の参加者らを募り、臨時国会が召集される見込みの8月下旬から9月上旬に設立総会を開く予定だ。霞が関の手法を熟知した官僚出身者だからこそ追及できる法律・規制の問題点の指摘や、政策を提言。当面は官僚の抵抗が目立つ公務員制度改革道州制地方分権改革、消費者庁の設立問題などを中心に取り組む。(NIKKEI NET 16日 07:04)