おすすめ本〜永遠の0(ゼロ)

永遠の0 (講談社文庫)

永遠の0 (講談社文庫)

 数ヶ月前、本屋でたまたま目にして何気なく読み始めたこの本を、65年前にヒロシマに原爆が投下された日の直前に読み終わったという、この偶然。。。
 私の伯父は、かの戦争で徴兵されて亡くなっています。まだ十代だったそうです。終戦後20年ほど経って私が産まれたとき、赤ん坊の私に伯父の面影が感じられたそうで、実は私の名前はその伯父に因んでつけられています。戦死した伯父と名前が同じだなんてイヤだろうな、と思われるかもしれませんが、私はフシギと不快に感じたことはありませんでした。伯父は亡霊でも何でもなく、私の母の兄弟としてこの世に実在した人に違いないわけですし、何よりその伯父はとても聡明で心の優しい人だった、ということを聞いていたからかもしれません。
 ただ子供の頃の私は、そんな話を聞かされていたからか、戦争というものがとても怖くて、テレビで戦時中のモノクロフイルムが出てきたりするといつも目をそらしていましたし、そんな夜は恐ろしくて眠れなくなってしまうこともしばしばでした。
 前置きが長くなりました。さて、おすすめ本です。

出版社/著者からの内容紹介
「生きて妻のもとへ帰る」
 日本軍敗色濃厚ななか、生への執着を臆面もなく口にし、仲間から「卑怯者」とさげすまれたゼロ戦パイロットがいた……。
 人生の目標を失いかけていた青年・佐伯健太郎フリーライターの姉・慶子は、太平洋戦争で戦死した祖父・宮部久蔵のことを調べ始める。祖父の話は特攻で死んだこと以外何も残されていなかった。
 元戦友たちの証言から浮かび上がってきた宮部久蔵の姿は健太郎たちの予想もしないものだった。凄腕を持ちながら、同時に異常なまでに死を恐れ、生に執着する戦闘機乗りーーそれが祖父だった。
 「生きて帰る」という妻との約束にこだわり続けた男は、なぜ特攻に志願したのか? 健太郎と慶子はついに六十年の長きにわたって封印されていた驚愕の事実にたどりつく。
はるかなる時を超えて結実した過酷にして清冽なる愛の物語!

 放送作家である著者らしく、主人公である宮部久蔵(あきらかに「七人の侍」で宮口精二が演じた寡黙な剣の達人・久蔵がモデルと思われる)が少しカッコよく描かれすぎていたり、元戦友たちのキャラクターが作られ過ぎているキライはあるものの、巻末の参考文献の多さから太平洋戦争の史実に忠実に描かれたと思われる戦闘シーン、とりわけタイトルにもなっている零戦の活躍はとても活き活きと描かれていて、私自身、今までの戦争のおどろおどろしいイメージをかなり転換することになりました。
 断っておきますが、これは戦争を賛美する物語ではありません。当時、世界が驚愕した零戦という素晴らしい戦闘機を開発する能力を持ちながら、一方で最後には特攻という愚かな作戦へと進んで敗戦へと向かっていく日本という国、読み進めるにつれて、そんな日本が抱えてきた「矛盾」が腹立たしいほどに浮き彫りになっていきます。
 物資が足りなくなるにつれ、最前線の兵士の命よりも飛行機や船を温存することを重視するような発言を繰り返す上層部。彼らは人命はおろか戦果よりも面子にこだわり、まるでやけっぱちのような数々の玉砕戦を企てたあげく、人間魚雷そして果ては特攻などという最悪の作戦を思いつくに至ります。
 そして、そんな士官学校出身の(官僚まがいの)司令部が、戦場から遙か遠く離れた本土の机上で思いついた、明らかに愚かな作戦に駆り出されたのが、主人公である宮部久蔵であり、その他の名もないごく平凡な若者達だったのです。しかし彼らは、どんな愚かな作戦であっても、自分の使命となれば命を賭けてそれに立ち向かっていく真摯さ、何より勇敢さがありました。それがかつての日本人だったのです。
 これって、現代に重なるような気がしませんか。権力闘争と自分たちの出世・生き残りに終始するばかりで正常に機能しない政治・行政。権力におもねるばかりの報道機関。ガソリン税だの一律消費税だの子供手当だの、時の権力が愚かな政策を繰り出しても、そんな中で生活は厳しさを増したとしても、それを静かに柔軟に受け入れ、最終的にこの日本の繁栄を支えているのは、我々庶民に他ならないと思うのです。
 こんな日本に誰がした?そう言うのは簡単ですが、この機にあの愚かな戦争を振り返り、この国のために犠牲になられた人々の無念さに思いを馳せながら、何とかこれからも日本という国の未来が続いていくように、日々自分なりの役割をはたしていくことが、現代に生きる私たちの義務なのかもしれません。
 ちょっと最後は大仰になりましたけれど、そんなことを考えさせられました。