『Momoe Yamaguchi Tribute Selection』

 俺、カバー・アルバムがあまり好きじゃないのだけど、同じ路線のいわゆる“トリビュート・アルバム”というのも、あまり聴く気が起こらない。特に、トリビュートされるのがソングライターならまだしも、「歌手」をトリビュートしてその人の持ち歌を現役プロ歌手が歌って「新しい命を吹き込む」とかいう、その企画自体にどこか無理があるような気がするのよね。
 考えてみてよ。例えば百恵さんのように、「歌姫」として音楽界の歴史に名を刻んでいるような人がなぜ、そうしていまだ人々に語り継がれているかと言えば、「その人のウタ(歌唱・楽曲)が、と〜っても、素晴らしいから。」に決まっているじゃない?良曲に恵まれていたというのは当然として、やっぱりその歌手がそれらの曲を卓越した表現力と確かな歌唱力と魅力的な声で歌ったからこそ、歴史に残る名曲たちが次々に生まれた、ということ。
 つまりね、トリビュートだとか何とか言っても、やっぱり偉大な歌手が歌った曲を前にして、どんなに頑張ったとしても、そのオリジナルを超えるなんてことは絶対に出来ないと思うわけよ。
 だから、俺は“トリビュート・アルバム”というものは結局、それに参加する歌手の売名行為か(実際、レコード会社がその時々に大プッシュしている超若手なんかが紛れていたりする)、参加した人気アーティストに釣られてたまたまCDを手にしたようなライトなファン層に、トリビュート対象である大歌手の旧譜(もちろん山ほど出てる)を買わせるためのプロモーション(販促品)でしかないのかな、なんて思っているの。
 そんなわけで『Momoe Yamaguchi Tribute Selection』と題されたこのアルバム、購入すべきかを正直、迷っていたのだけど、結局は「太田裕美さんが参加している」というそれだけの理由で、買ってしまった俺なのだ(って、まさしくレコード会社の狙い通りよね 苦笑)。
 この作品、過去に発売された百恵トリビュートの決定盤!という感じで、前2作のトリビュート盤からのセレクトに、アーティストが個別名義でリリースした既発作品のピックアップが数曲(鬼束・キャリー・ちひろの「いい日旅立ち・西へ」も収録)、そして収録曲の約3分の一にあたる7曲は新録、という構成。俺がこのアルバムに思わず手が伸びた最大の要因はと言えば、前述した太田さんをはじめ、この新録に参加したメンツがとても良かったからなのよね。
 そのメンツというと、ナンノちゃんを筆頭に、真知子たんに八神純子たんという黄金の78年NMアイドルコンビ、翼の折れた中村あゆみ、島んちゅ・BEGIN、そして俺の大好きなうふふふ・EPOという、70〜80年代に青春を過ごしたオッサンオキャマにとっては超豪華メンバーの揃い踏み(笑)。現役感があるのはBEGINくらいで、なかなか新曲が聴けないメンバーの「今の声」が聴けるというだけで、そそられちゃったわけね。
 とはいうものの、聴くまではやはり、それほど期待してなかったの。
 でも、違った。それら新録曲がまた、期待以上に各アーティストの個性が悉く良い方向に出ていて、そこがとっても良かったのだ。そんな新録曲だけ、どんな感じか、ちょっと紹介しちゃうわね。

  • 南野陽子「冬の色」 百恵さんともナンノとも縁が深い萩田光雄さんによるクラシカルなアレンジが新鮮。音を伸ばさず囁くように歌う南野陽子の持ち味が、初期の百恵さんが拙いながらも初々しく歌ったこのバラードに驚くほどマッチしている。これぞ瓢箪からコマ、よ。
  • 中村あゆみ「絶体絶命」 百恵さんが歌うとどうしても「女優魂」が溢れ出して重たくなってしまうこの曲を、あゆみ姐さんはハードなアレンジをバックに終始シャウト声で、「本格派ロック」に料理して聴かせてくれる。ハードさが逆に「軽み」を感じさせるから不思議。ナンノと続けてこの曲を聴くと歌手・山口百恵の守備範囲の広さに改めて圧倒される。
  • 渡辺真知子横須賀ストーリー サルサ・アレンジ。すっかり貫禄を増した真知子たんが身体をユサユサさせて楽しく歌っている印象で、原曲とは全く違った解釈ながら、こちらもしっかりと横須賀の潮風を感じさせる仕上がりになっているのがスゴイ。横須賀生まれの真知子たんだからこそ、なのかしらね。
  • BEGIN「夢先案内人」 一五一会バージョン。百恵さんの曲の中で随一と言っても良い、優しくメロウなメロディーを持つこの曲が、このテのアレンジに合うだろうことは、想定内のこと。とはいえ、BEGIN比嘉くんの爽やかでどこかのんびりした歌声で歌われちゃえば、やっぱり“トリップ”してしまうこと、必至。イイです。
  • EPO「乙女座宮」 これよこれ!!大好き〜!!エポ姉さんがChoro Clubをバックに、独特の浮遊感漂うボーカルでこのちょっぴりSFチックな曲に“宇宙の広がり”までを与えてくれた感じ。これはEPOの新曲と思って聴いた方が良い感じ。
  • 太田裕美曼珠沙華 そして真打登場。最初はね、この情念漲る歌を果たして“ミルキー・ヴォイス”の太田さんが歌いこなせるのかしら〜なんて思っていたのだけど、それは杞憂でした。その息遣いまでを再現した、一発録りと思われるリアルな空気感の中、どこまでもフェミニンかつ澄んだ歌声の隅々に女性の抑えた感情の迸りを垣間見せるような見事な歌唱で、凄みを効かせた百恵さんのヴォーカルとは対照的な、新しい解釈が生まれているような気がする。(贔屓の引き倒し、お許しくださいね 笑。)
  • 八神純子さよならの向こう側 ラストは八神さん。キラキラした声が高速で宇宙を飛んでいく感じね。相変わらず上手いわ〜、純子たん。このベタな歌謡バラードが、純子のテイストでムーディーなラウンジ・ミュージックに聴こえてきます。

 というわけで、今回は新録7曲の紹介だけだったけど、三原じゅん子先生の「愛の嵐」だとかVocalist英明の「秋桜」とか、藤あや子たんの濃厚な「謝肉祭」とか、もちろん歌姫アキナ「愛染橋」(結局これがイチバン百恵っぽかった)とか、お腹いっぱいな17曲・3,100円也のこのCD、hiroc-fontanaとしては、まあ買って損はなかったわ。