We are all alone

 あいつとケンカした。あいつのあまりに不用意な発言が原因。以前、俺が同じようなことをあいつに言ってしまった時、あいつはひどく怒った。それからは「言っていいことと悪いことがある」と口癖のように言っていたくせに。その「言ってはいけないこと」を、当の本人が言い放った。
 許せなかった。それから俺はあいつを拒絶した。口をきかず、目も合わせなかった。あいつが手土産に買ってきて出してくれた缶チューハイやデザートにも手をつけず、俺はあいつに突き返した。あいつ、ひとり無言で缶の酒を飲んで、デザートを食べた。
 あいつは謝った。何度も。俺の家の中で、俺に拒絶されたあいつは、途端に居場所が無くなった。沈黙の夜が過ぎ、朝、あいつは帰っていった。俺は結局、朝になってもあいつを許しきれなかった。どうしても気持ちが収まらなかったのだ。
 もう二度と会いたくない。その言葉が何度も頭の中を駆け巡った。でも口に出せなかった。
 ゲイである俺たちには結婚というゴールもなく、いつでも別れることができる。その気になって探せば、次の相手だって容易く見つかる。この世界はほとんどみんな「寂しい独身」なのだから。
 けれども結局、俺はあいつを許すだろう。そこにはあいつと二人でいることの安らぎと、二人であるがゆえに起こる苦しみとを天秤にかけている自分がいる。そして、いざ本当の独りになったときの自分を想像し、恐れを感じている俺がいる。そんな己の身勝手さ。
 そして今、一人分残った缶チューハイとデザートを見て、後悔している俺がいる。テーブルの上に残されたあいつの気持ち・・・。「ふたりぶん」に込められた不器用な優しさの残骸を見ながら。