斉藤由貴の短い青春

CD-BOX 1
 斉藤由貴は1985年2月、松本隆筒美京平のゴールデンコンビによる作品「卒業」でデビューした。この曲における松本隆氏の詞は松田聖子への提供曲「制服」(名曲!)をさらに熟成させたような内容で、卒業ソングの集大成とも言うべき完成度を見せている。

駅までの遠い道のりを 初めて黙って歩いたね
反対のホームに立つふたり 時の電車がいま引き裂いた

このフレーズのなんと切ないことよ。筒美先生のメロディーも爽やかさ・哀愁味が程よくブレンドされていて、青春特有のノスタルジックな雰囲気を醸し出すことに成功している。これに「セーラー服・ポニーテール姿の美少女」という彼女のルックスが加わり、このデビュー曲は完璧だった。
 そう、85〜86年頃、俺のアイドルナンバー1は斉藤由貴だったのである。
 80年代は、角川系の薬師丸ひろ子から始まったメディアミックス型のアイドルの流れがあって、原田知世菊池桃子、そして彼女、そのあとナンノ、ミポリンetc....と続いていく。その系譜の中で斉藤由貴は、アイドル現役時代から最も女優としての実力が評価されていた一人、という印象がある。「初代・スケ番刑事」から始まって、NHKの朝ドラ「はね駒」、舞台「レ・ミゼラブルの主役。デビュー間も無いにも関わらず「大女優」の風格さえ漂っていた。
 そんな好スタートを切った斉藤由貴、しかしそれは長続きしなかった。歌では、テレビの露出が多くなるとともにその「フシギちゃん」キャラと独特のヘタウマ歌唱が露呈し始め、陽水のリメイク「夢の中へ」でのモンキーダンス(!)をピークに、一気にフェードアウト。女優としても今ひとつ決め手となる出演作品に恵まれないまま(ドラマ「同窓会」は私メとしては衝撃的だったけどね)、いつの間にか2時間サスペンスなんかでお目にかかるように..。
 だが斉藤さん(この人は「さん」づけが似合うのだ)、音楽面では作品に恵まれていたと言えるだろう。初期の松本・筒美ラインの青春三部作(「卒業」「初戀」「情熱」)の完成度は言うまでもないが、その他にも爽やかポップス路線の(「悲しみよこんにちは」「青空のかけら」)フォーキー路線の(「MAY」「「さよなら」」「砂の城」)などシングル曲は地味ながらも名曲揃い。アルバムにおいても玉置浩二をはじめ谷山浩子原由子飯島真理といった個性的な作家陣が揃っていながら、「斉藤由貴」イメージが終始一貫していたのも好感が持てる(唯一「夢の中へ」は除外!)。また、イマジネーション豊かなアレンジで定評のある名アレンジャー武部聡志氏が多くの曲を担当しているのも高ポイントだと思う。
 さて、結婚後は幸せな家庭生活中心で芸能活動から遠ざかっている感のある斉藤さん。HPも次々と閉鎖の憂き目に遭い、なかなか情報入手も困難な状態なのがちと寂しいが、ぽつぽつ単発で女優業も行っているようだ。年齢も40歳近くなっているはず(!)であり、もはやかつての美少女の面影は望むらくもないだろうが、どうか、子育てに疲れて樹木希林になって復活!という事態にだけはならないことを祈る。(希林さん、「はね駒」で斉藤さんのお母さん役だったんだもん。似てたんだもん。)どうか、味のある女優さんとして復活を。