ナツメロの誘惑〜青春歌年鑑 その1

 コンピCD「青春歌年鑑」シリーズは、オリコン年間チャートに基づいた選曲というのが謳い文句なだけあり、チャートマニアにとってはかなり「的を得た」選曲が嬉しい、好企画となっている。ベスト盤と言えば、一人のアーティストを時代で追っていく、いわば縦の時間軸に拠るものがこれまでの主流であったとすれば、2000年代に入ってからはこのシリーズのように各時代ごと、横の時間軸でまとめられるものが増えてきた。米輸入盤ではかなり前から、ビルボードチャートに基づいた同様の編集盤があったことをご存知だろうか?ひな型としてはそれがあったように思うのだが、こうした企画が嬉しいのは、おもに以下の2点によると思う。
①1枚の中に自分が「濃く」音楽を聴いていた時代の空気が濃縮されているから、かなり強烈なタイムスリップ体験ができる喜び。
②例えば過去にドーナツ盤1枚だけ持っていた「あの歌手のあの1曲」がふたたび聴ける喜び。
タイムスリップという意味では、このシリーズ、演歌もポップスもコミックソングも、好きな曲(歌手)も嫌いな曲(歌手)もごちゃ混ぜに収録されているから、その、恣意が一切排除された曲の並びが、あの頃商店街を歩いていたときにふと耳にしたラジオや有線放送のようでもあり、まるまる時代の濃厚な空気感を甦えらせるのだと思う。また、そんな曲の中には、いわゆる「一発屋」で、ベスト盤こそ出ているものの、その1曲のためにCDを買うことはためらってしまう類の歌手、というのも少なからず存在するわけで、それをある程度カバーしてくれるというのが、こうしたコンピレーションCDの醍醐味だったりする。
 今、手元にあるのは「続・青春歌年鑑78」。この続編シリーズは、先に発売された本編(と仮に呼ぶ)では洩れたレーベル(ビクター系など)も網羅し、本編シリーズとセットにすればほぼ「痒いところに手が届く」仕掛けになっている。この78年盤を見ると、「カナダからの手紙」をオープニングに、PL「UFO」、キャンディーズ「わな」、百恵「乙女座宮」、秀樹「炎」、淳子「しあわせ芝居」、五郎「グッドラック」など当時のトップスターが揃い踏み。その他、渡辺真知子「ブルー」、原田真二「タイムトラベル」などNM勢に混ざって演歌系「北国の春」「青葉城恋唄」まで。まさしく当時のヒットチャートをそのまま再現するラインナップになっている。そして渋いところではAルイス「女はそれを我慢できない」が収録されているほか、極め付けは日暮し「い・に・し・え」である。日暮しはこれ以外にCD発売がなく(俺が知る限りだが)、長い間捜し求めていた幻の音源。幻想的なメロディーと、のちに「サンセットメモリー」でソロヒットを飛ばした杉浦尚美のベルベットボイスがとても印象的な曲で、当時のチャートでは20位前後にかなり長い間とどまるロングヒットだったように記憶している。カラオケや、ギターの唄本には入っていても、なぜかCD化が実現しなかった幻の名曲。この曲1曲が入っているだけで、俺にとってこのCDは、超貴重盤である。

続・青春歌年鑑 1978

続・青春歌年鑑 1978