ナツメロの誘惑〜青春歌年鑑 その2

青春歌年鑑 1966

青春歌年鑑 1966

 いわゆる「昭和歌謡っぽい」と言われるもの、椎名林檎「歌舞伎町の女王」や、EGO-WRAPPIN'、大西ユカリなどのテイストを好む人であれば、「青春歌年鑑」60年代シリーズを1枚でも持ったとき、本物の「昭和歌謡」の持つ深遠さに改めて驚嘆するのではないだろうか。
 俺が2年前、CDショップで目にして、どうしても欲しくなって手に入れた「青春歌年鑑1966」。昭和41年ということは、この年、俺はまだ2歳。生まれてはいたけれど、まだピュア&シンプルな精神構造のもとで、ある意味と〜っても幸せに暮らしていた頃だ。この年の音楽をリアルタイムで知っているとは言えない。では、なぜ60年代シリーズの中で66年版が欲しくなったのか?自分でもよくわからないのだが、きっと、シリーズ中最も有名曲が網羅されていたから、という気がする。オリコンの創刊は1969年。実際、オリコン年間チャートからの選曲が謳い文句である青春歌年鑑70年代シリーズと比べると、60年代シリーズはやや選曲に偏りが見られるものが多いらしく、某CD通販サイトのレビューでも選曲に?マークがつけられているものが多い。その点、この66年版は文字通り超有名曲ばかりで、買って損は無かった。
 2枚組CDの1枚目には「悲しい酒」「涙の連絡船」「ほんきかしら」「函館の女」「柳ケ瀬ブルース」「星影のワルツ」「ラブ・ユー東京」など演歌・ムード歌謡系中心の選曲。2枚目は「君といつまでも」「お嫁においで」「想い出の渚」「恋のフーガ」「逢いたくて逢いたくて」「空に星があるように」「夕陽が泣いている」「若者たち」などポップス・フォーク系が中心に収録されている。ひばりさんにおチヨさん、はるみさん、元祖御三家、美川さん、加山雄三ザ・ピーナッツからリンダ、ザ・スパイダースまで。このラインナップを見れば、ある意味この盤が「昭和歌謡」の集大成であることは納得できるでしょう?
 さて、70年代にどっぷり歌謡曲に漬かった世代にとっては、作曲家・筒美京平、作詞家・阿久悠あたりが昭和歌謡、と思いたいところもあるけれど、やはりこの60年代の濃密な歌謡曲を体験してしまうと、70年代の音楽はもう洗練された「ポップス」というジャンルに完全に軸足を移していたのだな、ということがよくわかる。
 その間にある違いは、何なのだろう?俺としては以下の点ではないかと思っている。
①多彩なリズム・曲調。(クロスオーバー。というか混沌。)
まず、昨今のJ-popがほとんど8ビートか16ビートのロックであることと比較すれば、実にリズムが多彩なのに驚く。マンボ、4ビート、ワルツ、ルンバ、ハワイアンにフラメンコ(?)まで。演歌・浪曲調やフォークソングを含めれば、まさに何でも来い、の様相。まあ、ダンスホールやキャバレー全盛期であり、時代といえば時代なのだけど。しかし、そのバラエティーというかバイタリティーというか、これは「歌謡曲は高度成長期の産物」と言われるのも納得である。
②個性的な(個性的過ぎる)歌手たち。
このCDに収録のおもなアーティスト(上述以外で)。チータ、サブちゃん、高倉健青江三奈、森進一、園まり、布施明マイク真木、ザ・サベージなど。みんな「オトナ」だし、濃い人ばっかり。プロフェッショナルな時代だったのである。
 いずれにしても、この時代の音楽は、こんなにもいろんな要素がごっちゃになっていながら、すべて「昭和歌謡」に収まってしまうお行儀の良さがある。この妙なまとまり感は、アレンジのせいかもしれないし、録音技術の問題かもしれないが、俺がイチバン感じたのは、根底にある「日本人が愛するはずの音楽」に対する、作り手達の真摯さのようなもの。音楽が「ビジネス」と化す前の、まだ純粋だった時代の産物。そんなロマンチックなことを思わせる魅力が、このCDには詰まっているような気がする。
 追記。オススメの1曲。橋幸夫「雨の中の二人」。恥ずかしいくらいドリーミイな、名曲。