満員電車の忌々しい人々〜マッチョ野郎が去って

 週末、遭遇した場面。
 俺は職場の飲み会をやっとのことで抜け出して、家路を急いでいた。もう終電に近い電車。週末だけあって、車内は超満員だ。俺も、身動きできないことを不快に感じながらも、早く帰って布団に入りたい一心で、じっと我慢して電車に揺られていた。
 ある駅に着いたとき、車内で小競り合いが起こった。サラリーマン風の若い男が胸ぐらを掴まれて窓ガラスに身体を押し付けられているのが見える。俺には胸ぐらを掴む手しか見えなかったが、その腕もワイシャツだったから相手もサラリーマンらしい。どうやら押した、押さない、でトラブルになったらしい。
 「やめろ」と回りの乗客が止めるが、攻撃側の男は「うるせえ」などとさらに興奮度を増している様子。一方、胸ぐらを掴まれている方は、声も上げられず、無抵抗のままだ。
 結局、興奮した男は駆けつけた駅員と乗客たちの助けでホームへと引っ張り出され、両腕を駅員に抱えられ、悪態をつきながら駅員室へと「連行」されていった。窓越しに顔を見ればいかにも腕っ節が強そうな、30前後、短髪のサラリーマンだった。ウッス、体育会精神で頑張りマス!みたいな感じの男。
 そのマッチョ・暴れ牛リーマンが去ったあとの車内。
 明らかに、小競り合い発生前とは空気が変わっていた。異分子が去ったあとの、一体感、そして安堵感。俺たち、あたしたちは、ただ早く家族のもとへ帰りたいだけなんだ。仕事帰りでおまけにこんなに窮屈で不快な満員電車で、爆発したいのはわかるけど、でも俺たち、あたしたちは、そんな野蛮なことは、しないよ。みたいな感じ。
 もちろんみんながそう考えていたどうかは、わからないけど。
 でも、俺は感じた。このガマン強くて行儀良くてマジメで善良な多くの日本人が持っている「良さ」を、もっと、誇りに思ってもいいよなって。(ついでに、アベシンゾーがもし、こんな日本人たちを騙そうとしてるとしたら、本当に許せないよな、なんてこともね。)
 その日は自分が降りる駅まで、結局30分近くスシ詰め状態だったけど、何だかいつもより少し、隣の人のために自分の場所を空けてあげようかな、なんて思えたのである。