ウェルカム・フィリピーナ??

 2004年、日本とフィリピンが「FTA(自由貿易協定)」という、2国間の貿易やサービスのやりとりの制限を撤廃する協定を結び、その一環として看護師・介護士の受け入れが決まった。
 そして、小泉さんの卒業旅行の置き土産。9月9日、話は現実化したのだ。

─日比経済連携協定に署名・日本、初の看護師受け入れ─
 フィンランド訪問中の小泉純一郎首相は9日午後(日本時間同日夜)、ヘルシンキのホテルでフィリピンのアロヨ大統領と会談、日本とフィリピンの自由貿易協定(FTA)を含む経済連携協定(EPA)に署名した。
日本側はフィリピン人看護師や介護福祉士を条件付きで受け入れる。
日本が結ぶEPAで、労働市場の一部開放を盛り込むのは初めて。
日本経済新聞 http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20060909AT3S0900B09092006.html

 その後、厚生労働省は、フィリピン人看護師や介護福祉士の受け入れ枠を当初2年間で計1000人(看護師400人、介護福祉士600人)とすると発表した。実際の受け入れが始まるのは来年度前半になる見込みだそう。受け入れるのはフィリピンでの看護師資格取得者や介護士研修終了者らで、看護師は3年間、介護福祉士は4年間の在留期間を認めたうえで、その間に日本語や実務研修、日本の看護師や介護福祉士の国家資格取得を目指してもらうのだそうだ。
 現在、看護・介護の分野は3K職場の最たるものと言われ、万年人手不足の状態で、介護分野の求人倍率は1.9倍とのデータもある。働く場が欲しいフィリピンと働き手がいない日本のニーズが合致した結果、今回のフィリピン労働者の受け入れが決まったのは、理解できる。でも、そんな単純な話にしてしまっていいのだろうか?ここでも、新しいことは「いいんじゃない?やってみれば?」、でも「あとはよろしくね」の小泉流でお茶を濁されてしまった感がある。本質は何ら解決できない、表層だけの「エセ改革」のような気がするのだ。
 今回の改革(規制緩和)の目的は何か。それは医療・福祉予算の削減だ。つまり労働にかかるコストの削減、目的はそれただひとつである。安い賃金で大勢を雇える、それだけなのだ。
 労働力としての質については、同じ国家資格を得るのだから、日本人だから良くてフィリピン人だから悪い、などということは一概には言えないし、言うつもりもない。現場に支障があるとすれば言葉や文化の違いをどう乗り越えるか、ということに尽きる。それは、未知数だ。
 一方でこの改革が理想的な形で実現したとき、それは素晴らしい国際交流の一つとなる可能性もあるし、賃金が安い分多くの労働者が雇える病院や老人ホームとしては、むしろ手厚い看護・介護が提供できるようになるかもしれない。それは確かだと思う。
 でも。 
 かつて介護分野といえば、介護保険導入の際、新しいビジネスチャンスと雇用創出の場として政府からも大いに喧伝され注目を浴びた。しかし、今回のフィリピン労働者の受け入れにより、もはや日本政府はこの分野での新たな雇用創出は「諦めた」に等しいのではないか。また同時に、看護師・介護士たちの現場から絶えず上げられてきた声、「労働環境の改善」「地位の向上」「賃金レベルの向上」さえも、完全に棚上げされ無視されてしまうことになるのではないか。ここが本質的な、大きな問題なのだ。これが解決されぬまま、フィリピンの労働者たちを受け入れることは、さらなる賃金低下・労働環境の悪化という、負の循環を招きかねない恐れがある。
 一握りの人間の打算的な思惑で、重要なことがあまりに短絡的に決められたような気がしてならない。