歌姫たちの今

bless youDESTINATION
 松田聖子『bless you』が5月、中森明菜DESTINATION』が6月、ともに2006年発売の新譜だ。ともにオリコンチャートのトップ20入りを果たした。ふたりがトップスターとしてしのぎを削っていた80年代、多くのファンは、20年以上経った2006年にふたりが新譜を発表し、チャートインを果たしている未来など、到底想像できなかったのではなかろうか。
 当時は、アイドルはそのルックスのピークを過ぎれば引退するか、自然淘汰されるのが宿命のように捉えられていた時代。そんな中にあって、その高い音楽性や歌手としての高度な表現力、そしてスタッフサイドの柔軟な企画力により、従来のアイドル像を次々と打破し、新しい地平を切り拓いてきた両雄が聖子そして明菜。そんなふたりがディケイド(10年の歳月)を2回も乗り越えて、まもなくトリプル・ディケイドを現役のまま迎えようとしていることは、少し大袈裟に言わせてもらえば、日本のポップスを愛する者としてとても感慨深く喜ばしいことだ。もちろん演歌系の歌手とか、拓郎や陽水やユーミン、みゆきやサザンなど自作自演系アーティストなどは、30年以上現役というのも数多い。でも、アイドル出身のアーティストがここまで第一線を続けて来られている、それは前例を見ないケースであって、その意味で今まさに彼女らはどんどん新しい歴史の1ページを書き加えていることになる。俺はそこを評価したいのだ。(男性ではヒロミ・ゴーを忘れてはいけないね。そういえば・・・。)
 聖子に至っては『bless you』のCDジャケットを見ても今だにブリブリの衣装を着たポートレートが満載で、それがほとんど違和感ないのだから、恐れ入る。まさに「あなたの知らない世界」に突入している感じだ(笑)。
 さて、肝心のアルバムの中身について。まず聖子は相変わらずの聖子ワールドが展開。それ以上でもそれ以下でもない。もはや彼女と彼女のコアなファンのためのアイテムのような感じかもしれないね。もうマンネリを通り越して一つの様式美。唯一無二の「聖なる声」を堪能できれば、ファンは幸せなのかな?でも、もう少し刺激が欲しいはずだ。久々に新しいソングライターを迎えての先行シングル「bless you」が良かっただけに、この聖子ワールドのあまりのブレのなさ・頑固さに残念な思いを繰り返してるファンも少なくないみたいだし(実は俺もその一人なのだけど)。
 一方の明菜は、薔薇の花をモチーフにしたゴージャスなCDジャケットからしてリキの入った作品と見た。こちらも重厚でうるさめのバッキングに明菜の太い声が絡み合う、特徴的なサウンド。マイナー&中近東系の曲中心で、明菜ここにあり、という感じだ。曲によってアムロっぽかったり中島美嘉っぽかったりもあって、そういえば歌手としては聖子が孤高・ワンアンドオンリーのイメージだとすれば、もしかしたら明菜こそ女性シンガーの「本流」であり、実は目立たない部分で多くのフォロワーを生み出しているかのもしれないな、と思った。
 ともに40代を迎えた歌姫ふたりの今。声そのものの張りは確かに衰えたものの、歳月によって熟成された豊かな表現力で、見事に今の自分たちそれぞれの世界を表現しているのが何だか嬉しかった。同時代を生きている者としてね。