ウェルカム・フィリピーナ??その2

 先日夜のNHKニュースで、件のフィリピン人介護士について特集していた。フィリピンではすでに日本を含めた諸外国に人材を輸出するために、専門学校が乱立しているそうだ。そのうちの優秀な学生による日本の病院や施設での研修もすでに始まっており、ニュースはその姿を追うものだった。
 ニュースで伝えられたのはこのような内容だった。
 ①日本とフィリピンの間で結ばれた「FTA自由貿易協定)」の一環で、看護師・介護士の受け入れが決まった、その内容についての解説。
②欧米諸国ではすでにフィリピン人の看護師・介護士は定着していること。その枠の中に日本が入り、現地養成校では具体的に日本での労働を目標にした指導が始まっていること。(つまり、フィリピン側は経験ずみである、ということ。)
③日本にとっては初めての試みであり、コミュニケーションや技術的な不安もあることから、日本語の習得は勿論、現地の資格以外に日本での国家資格取得を条件づけるなど、敢えてハードルを高く設定しているということ。それは同時に、専門性の確保によって看護・介護職場での賃金その他の労働条件低下を防ぐ意味もあること。
④実際に日本に来ている研修生が、次第に職場に馴染み、その熱心さから患者や利用者、同僚からも高評価を受けている様子。
 ニュース報道には、総じてこの「新しい試み」には不安要素があるながらも、良いこと・歓迎すべきことだという主張が感じられた。ニュースを見ている段階では、俺もなんだか「いいんじゃない?」という気がしたが、見終わって何かがひっかかった。
 フィリピンから来る、熱心な介護士。ちゃんと勉強しているからしっかりとした技術もある。大家族で育っている人が多いから、イマドキの日本の若者よりもよく気が付くし思いやりもある。いいことづくめ。確かにそうかもしれない。だが彼らの多くは、本国の家族を養うための「出稼ぎ」労働者だ。いくら国家資格が保証したとしても、ただでさえ青息吐息の福祉事業者が彼らの足元を見ないとは限らない話だ。そして、結局は資格の有無さえ曖昧になって、単に賃金が安い(不法な)労働者を雇用することさえ横行しかねない。福祉の世界に市場原理導入を謳ったのはまぎれもない政府側なのだが、そこには必ず悪徳事業者が現れるものなのだ。それらの監視と、有資格者全体への賃金保障でもしない限り、今後の看護・介護現場の労働環境崩壊は免れないのではないだろうか。高い志を持って頑張る看護師・介護士たちを大切な社会資源として守る、その仕組みをまず日本は考えるべきなのだ。
 ハングリー精神旺盛なフィリピンの人々にだけ難しい課題を押し付け、問題を安直に解決しようとしている気がして仕方がないのである。
 そして一見信憑性がありそうなNHK、民法よりはマシなのは確かだが、巧妙に問題を隠して大本営側に立った報道を忍び込ませるから要注意なのだ。
(「その1」はこちら→http://d.hatena.ne.jp/hiroc-fontana/20061001/p2