『始まりは“まごころ”だった。』

始まりは“まごころ”だった。

始まりは“まごころ”だった。

 とても、しあわせだなん。太田さんのファンでいて、良かったなん。
 子供の頃にひょんなことで好きになった歌手が、決して大スターでもトップテン常連でもなかった歌手が、第一線を去ってすでに20年以上を経たいま、現役としてまた新しいアルバムを届けてくれるなんて。それもこんなに瑞々しさを保ったまま。
 1曲目「きみはぼくのともだち」を耳にした瞬間、そう思った。
 この声なのね。確かに若い頃のようなふくよかな丸みはなくなり、声量は落ちているけれど、この清涼感こそがまさしく、太田裕美。ここには、昔聴いた母の鼻歌のように、肩の力を抜いて自然体で歌うことを楽しんでいる裕美さんがいる。その歌声は、母のように温かくて相変わらず少女のように甘くてときどきボーイッシュでやっぱり切なかった。
 そんな太田さんがファンのみならず、若手のミュージシャンたちからもリスペクトを受ける存在であったことは、このアルバムの参加ミュージシャン達が歌詞カードに寄せた愛情溢れるコメントだけでなく、今回集まった1曲1曲の密度の濃さからも充分に感じ取れた。そこがまた嬉しかった。
 「きみはぼくのともだち」「すぐに君の声を」「真夜中のラブレター」「なないろの仲直り」「星屑」「Do I Do,You Do」「プラハ」「君が言った ほんとの事」「遠い明日」「夢見る頃にさよならを」「」。なぜかタイトルを見るだけで癒される11曲。
 通して聴けば、特に歌詞カードを見ながら聴けば、太田裕美さんの32年、そして自分が太田さんの音楽とともに過ごして来た年月が胸に迫ってくる。そんな、やさしくも強さを備えた曲たち。
 今の太田さんが、年輪を重ねてから身に付けたらしい、声が消え入りそうな瞬間にハーモニクスのような響きを聴かせる歌い方が、癒しを倍加させる。楽しかった思い出も苦い経験も、すべて昇華させたようなその声を、今の自分だからこそ味わえている。奇跡のような気がして、不覚にも涙が出てきた。
 しばらくは俺も、このアルバムを携えて生きていくことになるのだろう。
 ※1曲ごとの解説は、「ナツメロ茶店」さんにとても愛情込めた記事があるので紹介しておきます。ホームページ移転のお知らせ - Yahoo!ジオシティーズ