『硫黄島からの手紙』

hiroc-fontana2006-12-31

 話題作、見てきました。
 全編日本語、主演・助演もほとんど日本の俳優。K・イーストウッド監督、よくぞここまで撮ってださいました、という感じ。
 最近ビデオレンタルショップに行っても、本屋に言っても、かつての戦争の英雄たちを主人公にした映画や伝記本がずらっとコーナーに並んでいて、何だかヤダなあ〜と思っているこのごろ。邦画では『男たちの大和』が公開されてヒット。ニポンでは再軍備にむけてのプロバカンダが始まっているのか?みたいな。
 そんな中、アメリカから届けられた『硫黄島からの手紙』の公開は大きな意味があるように思う。やっぱり今の日本の商業ベースの映画じゃ、ここまであの戦争に向き合ったものは作れないんだと思う。見えない力が働いているのかどうかは、わからないけど。
 ここで描かれるのは、過去の日本兵たちがまぎれもない戦争被害者だった、という現実。主役の栗林中将(ケン・ワタナベ)は英雄的軍人として描かれてはいるけれど、彼とて愛する家族から引き離され、勝ち目の無い戦地に送り込まれた挙句、本土からの援軍も絶たれたまま最後は・・・ということだ。
 硫黄島といえば、先にNHKスペシャル「硫黄島 玉砕戦 〜生還者 61年目の証言〜」という番組が8月に放送されていた。それを見て、日本兵たちが不利な局面ながらも健闘したその一方で、生存者の生生しい証言からその持久戦の凄まじさ・悲惨さを知り、衝撃を受けていた俺。水も食べ物もない状態で蒸し暑い地下壕にひたすら篭って敵国への(無駄な)抵抗を続ける毎日。投降も、自決も許されない。やがて飢えと病気の蔓延で極限状態を迎えた濠の中では、人間同士としての秩序さえ失われていったという。まさに「生き地獄」。そこからするとこの映画『硫黄島からの手紙』は、いささか淡々とした感じもして、キレイに出来すぎている感は否めない。それでも「ヒーローではない」二宮くんを準主役に置いたことで、誰も幸せにしない戦争というもの、その理不尽さを訴えるには十分な説得力が出たように思う。二宮くん、瑞々しい名演に拍手。(俺のタイプじゃないけど(笑))。
 ちょっと話はそれるけどどうしても書いておきたいことがあるので最後に書いておく。年末特番で爆笑モンダイの「太田総理〜」があったんだけど、その中で満を持した感じで「憲法九条を世界遺産に」というマニュフェストが太田から出されたのね。喧喧諤諤と九条についての議論がなされる中で、最後に硫黄島玉砕戦体験者というご老人がゲスト議員として出てきた。それまでの話の流れでは、ふたりの年配女性タレント(戦争体験者)が「戦争は二度とすべきでない」という趣旨の発言をしていて、そちらのムードに流れていたのね。でも最後に出てきた元兵士さんが、なんと「お国を守るためには軍隊は必要」と発言。さすがにこれには太田もシュンとなっちゃってあとは何も言えないまま、あっけなく議案は否決、という結果に。
 元軍人さんによる「軍隊容認」発言。これは彼(ご老人)が自己のアイデンティティを守る意味で至極当たりまえの発言でもあったわけだけど、その言葉が放つ「重み」は視聴者にとって圧倒的なものだったように思う。しかし、過去の日本において、軍部・軍人たちのそのような考え方こそが、日本を戦争へと導いていった大きな誘因となったことを、果たして番組制作者は理解していただろうか?非常に危険な放送をしてしまったことに猛省を求めたい。せめてもうひとり、元軍人の「九条擁護論者」を招くべきだったはずであり、それを怠って偏向的内容を放送してしまった、あの民放テレビ局の責任は重大だと思う。
 二度と『硫黄島からの手紙』のようなことが起こらないことを祈るのみ。