風邪っぴき頭は暴走する

 風邪を引いてボーっとした頭にはいろいろと変なことが浮かんでくるもんだ・・・。
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 俺は高校生の頃、クラスに馴染めなかった。
 別にいじめられていたわけではない。単に、思春期のど真ん中で巨大化するばかりの「自意識」と、それに反比例して硬くなるばかりの「自分という殻」の狭間でひとり、もがいていたに過ぎない。
 素直に若い自分のエネルギーを解放して、彼らの中に飛び込んでいけば良かった、今思えば、それだけの話なのだが、その頃の俺はどうしてもそれが出来なかったのだ。
 殻に閉じこもっていたのは、ゲイであることを後ろめたく思っていたからかもしれないが、今となってはよくおぼえていない。
 その頃の俺は、マイナス面ばかりみていた。クラスメイトのことも、自分のことも。だから、俺にしてみればドンチャン騒ぎに明け暮れているようにしか見えなかった当時のクラスメイト達は、一人残らずみんな嫌いだったし、そんな中で仲間に入らず卑屈になっている自分も大嫌いだった。
 でもある日、気付いた。他人を嫌いになるのは、全部その原因は自分にあるんじゃないかと。つまり、こういうことだ。例えば誰かのデリカシーの無さを批判してその人を嫌いになるのは、自分に大胆さ・大らかさが足りないことの裏返しなのだと。意味も無く騒ぐクラスメイトたちを鬱陶しく感じるのは、本当は一緒に騒ぎたいのに騒げない自分への悔しさと、それに伴う彼らへの嫉妬心だと。そう、すべて自分の心の問題なのだと。
 そして、俺が生きていく上でのメインテーマはその日から「自分のマイナス面を克服すること」となった。
 その後、大学へ進学し、就職し、失敗を繰り返し紆余曲折しながら年齢を重ねてきた。そしていつの間にか40代。
 ふと気付くと、回りに嫌いな人がいなくなっていた。友達もたくさん増えていた。随分と、生きやすくなっていた。オトナになるっていうことは、こういうことだったのだ。
 俺自身はというと、確かにあの頃よりマイナス面は克服できているのかもしれないが、その分プラスとして自慢できる部分も少ない、人畜無害な人間になってしまってた、ってさ。
 あれはダメ、それはダメって、結局ず〜っと、マイナスばかりに気を取られたまま、ここまで来ちゃった、というわけよ。ちゃんちゃん。
 でも、負け惜しみを言うようだけど、これで別に後悔もしていないんだ。俺。
 風邪を引いてボーっとした頭にはいろいろと変なことが浮かんでくるもんだ・・・。