ユル美ママ、大いに語る

 土曜の深夜。上野の片隅にあるゲイバー「ぺん銀」のママ、ユル美ママはこの道ウン十年の、俺たちの知恵袋。恋の悩みから仕事の悩み、そして時には日本の行く末まで、何でもわかりやすく指南してくれる。
 国民投票法成立で不安一杯の俺は、客足も途絶えた深夜、一息ついたママとカウンターでふたり、憲法について熱く語り合ったのだ。さすがママ。70年安保で活躍したって噂は本当だったみたい・・。
 以下、そのときの会話を採録してみた。
俺「ねえ、ユル美ママ。ママって、護憲派なの?」
ユル美「ええ、護憲派よ。安倍さんが変えたいって言ってるのはぶっちゃけ、9条のことよね。わかりやすいわ、あのオボッチャマ。
たしかに自衛隊と現行の9条には齟齬があるわ。喉にトゲが刺さってるみたいな感じよね。でも、権力の暴走に歯止めをかけるってのが憲法よ。自衛隊を軍隊として憲法で認めちゃうのは、今はやっぱり危ないわ。いずれは整理しなくちゃいけないけど、今は変えるときではないと思うの、だからアタシ護憲派よ。ごけんあさあせ〜、て。・・・つまんないわね、あんた。」

俺 「でもねママ、少なくとも独立国としては軍隊を持つべき、てよく言うじゃない?」
ユ 「バカ言うんじゃないわよ。たとえ軍事力を蓄えたとして、その軍隊にどの程度のパワーを持たせればいいと思ってんのあんた?それこそ「核」まで行かないと、安心できないに決まってるでしょうよ!アタシたちはもっと、も・し・も・軍隊を持ったら、って、その先のことをよーく考えとかなければいけないわ。
麻生タロちゃんなんかが前にベラベラしゃべって叩かれてたけど、本来は核を持つか持たないか、そこまでの議論と決意がなくっちゃ、最後までアメリカの核の傘下で雨宿り〜みたいになって、アメリカの言いなりのままよ。だから、ホントは核を持っちゃえば早いんだけど、今のところ、それは無理でしょ〜いくらなんでも。
だ・か・ら、当面は今の自衛隊で充分よ。今の状態でいくらリッパな軍隊を持っても、アメリカ軍の手先として使われるのが関の山に決まってるわ。それよりはアメリカさんに何を言われても知らぬ存ぜぬ、どこ吹く風で、黄門さまの印籠のように憲法9条をかざしてりゃ、いいのよ。このインノーが、もとい、インロウが目に入らんか!てなもんよ。だって、もとはアメリカに押し付けられた憲法なんだもん。でしょ?ふふふ。」

俺 「そうは言ってもママ、中国は学校でずっと、反日教育してるって言うし、北朝鮮も相変わらず軍備を拡大しているじゃない?彼らが日本に攻めてきたら、どうするの!」
ユ 「ハハハ(乾いた笑い)、そのときはアメリカ軍が守ってくれるんじゃないの?知らないけどさ。そうしてもらうために、安倍さんだって集団的自衛権有識者懇談会だっけ?そんなんまで作って頑張ってきたんでしょ?
でもさ、中国も北朝鮮も、日本を攻めることによって何の得があるのかしら。だって中国にしたら日本は商売ではイチバンのお得意さまよ。そう思わない?過去の怨念だけ?そこを聞いてみたいわ今度。あ、今度聞いてみようかしら、うちにも結構来るのよ、中国のお客さん。大胆で積極的よあの子たち。今度紹介するわ。あ、それはそれとして、アタシ正直、「攻めて来る」という話の方が非現実的に思えて仕方ないの。それにね、ぶっちゃけ、アタシはゲイだから家族もいないし、ミサイルが飛んできたら「もう終わりねえ」ってそれだけだと思うわ。お国のために戦おうとか思わないし。だってあんた、想像してみてよ、報復だ〜とか言ってアタシが戦闘機に乗って敵地攻撃〜〜〜、なんて有りえないでしょ。
あ〜ちょっと暑くなってきたわ。何か飲む?そういえばあんた、こないださあ、●●を見たのよ、あそこで・・・・」

ユル美ママのトークはますます白熱したまま、春の宵は更けていくのだった。・・・つづく