竹内まりや「人生の扉」

 俺は、人生肯定派。いろいろなことがあるけれど、とにかく生きていくことは素晴らしいことだ、なんて今、思ってる。
 ゲイであることを自覚した少年時代から、たぶんストレートの人より「少なくとも一つは」悩みを多く抱えてきたわけだから、順風満帆なんて言えたもんじゃないけれど、年齢を重ねながら少しずつ少しずつ苦悩が昇華されて、今は何だかとても穏やかな波の上を進んでいる気がする。たまに大きな横波が来たりするけれど、それもやがて落ち着くであろうことが、経験でわかってきたのかな?あまり動揺せずに進むことが出来るのだ。そして、そんな平静な心の状態を保つことが生きる上では何より大切ってことが、何となくわかってきたような気がする。
 さて、まりやさんの最新作『Denim』のラストに収められたこの「人生の扉」を聴いて、ああ、この人も物凄い、人生肯定派だな〜と思ったのね。もう50過ぎっていうのをカミングアウトしたあげく、あたしゃ90過ぎまで生きるよ、なんて宣言しちゃうフレーズも凄いけど、歳をとっていくって素晴らしいことよ、と最初から最後までここまで「てらいもなく」宣言しちゃうまりやさんの、この小市民っぽさが、何だかとても・・・な感じで。
 これがみゆきさんだと、「歳をとるって素敵なことです、そうじゃないですか」なんて歌いながらそのウラで「アタシはどうせイカズ後家よ」みたいな皮肉っぽさが出ちゃうんだけど。
 まりやさんは、きっと成城あたりの豪奢なお屋敷の庭でハーブに水でもやりながら、青い空見上げて「ああ、今のアタシってば幸せだわ」ってホントに思ってそうで。(そんでもって今日も水やりが終わったら外車でデパートに夕食の買出しへ、みたいな。あ、これは余計なやっかみね。)
 

 君のデニムの青が あせてゆくほど 味わい増すように
 長い旅路の果てに 輝く何かが 誰にもあるさ
 I say it's sad to get weak
 You say it's hard to get older
 And they say that life has no meaning
 But I still believe it's worth living
 But I still believe it's worth living

 この最後のフレーズ、But I 〜が繰り返されているのがミソ。どうよ。この前向きさ。そんでもって、アルバムタイトルが『Denim』。カッコよく歳をとったアタシの色あせた味わい、出てるかしら?てなもんね。
 だんだん辛口になってきちゃった、いけない、いけない(笑)。
 でもね、同じ人生肯定派として、共感はするものの、ここまでいっちゃうと逆に何だか興ざめなのよね。生きる世界が違いすぎるのかな、みたいな。人生を肯定しているったって、いくらなんでも俺はそんなに幸せじゃないし(だって結局は“Lonesome”ですから)。まりやさんも歳を重ねたなりのもうひとひねり、あってもいいんじゃない?みたいなね。なんだか「勝ち組の余裕」だけで人生を肯定しちゃってて、何かを乗り越えた人だけが語れる人生訓みたいなものが足りないというか、どこか言葉が上滑りしている感じがするのよね。これが、この曲の感想なのです。いい曲なんだけどね〜。偉そうなことばかり言っちゃってるけどね。まりやさん、ごめんなさい。
 

 ほかの誰とも違う 君らしい生き方 見つけて
 愛を知る その日はもう近い。
 「クワイエット・ライフ」より

 まりやさんの15年前のこの曲に救われた俺としては、何だかあまりに今回のまりやさん、カドがとれ過ぎてつまんない気がするのよね。まだ隠居は早いよ、と思わず言いたくなっちゃったのだ。