セイコ・ソングス8〜「たそがれにSay Good-bye」

hiroc-fontana2007-08-13

 1989年のアルバム『Precious Moment』で多くの聖子ファン同様に大きな落胆を味わった俺。同時に聖子さんにとって、松本隆氏の存在がいかに大きかったのかということを思い知らされた。翌90年に1年ぶりに『We Are Love』が発売されても、しばらくは購入を控えていた。控えていたというより、興味が失せてしまっていた、というのが正解かもしれない。
 国内盤ではメルヘン少女のポエム日記のような歌を押し付けられ、一方ではバブル景気に便乗した全米進出プロジェクトの何とも「しょっぱい」成果ばかりを見せ付けられ、当時は聖子さん本人よりもむしろ、彼女の熱心なファンこそ、どう彼女についていけばいいのかわからないまま、八方塞りの状態だったのかもしれない、いま思えば。
 そんなとき、このアルバム『We Are Love』がレコード店でかかっているのを聴いた。
 そして、あ、ちょっと今までのセイコさんとは違うぞ、という気がして、即買いに走った俺。
 その時かかっていた曲がこの「たそがれにSay Good-bye」だ。

風になびく私の髪が 首にまとわりついて離れないわ
まるで私の気持ちのよう
いつまでもあなたをふりきれなくて

 この歌い出しの聖子さんボーカルにやられてしまった。地声に近い低音で、とても抑制の効いた歌い方。得意の「しゃくり上げ」や「喉絞め」もなく、そこはかとなく醒めた印象を醸し出していて、一聴して、ゾクゾクとするほどの大人っぽさを感じたのだ。それまでになかった聖子さん。
 詞(聖子さんの自作)にしても、明らかに前進が見られた。ここでは、荒野の道を傷心のまま車で飛ばしてきたヒロインが、全開の窓から入る風で長い髪をなびかせている情景がしっかりと描写できている。これは花柄模様のラブ・ソングでは、ない。聖子ちゃん、やるじゃん!当時ホントにそう思ったのだ。(結局、このテーマはその後何度も使い回しされることになるのだけどね。。。)
 そしてこの曲はそのテンションを保ったまま、サビへ突入する。

I still love you but
Our sweet song will have to end, my dear・・・
もう あなたなしでも生きていくのよ

 英語のフレーズながら、透明感のある声(しゃくり上げ付き)と哀愁味のあるメロディーがマッチして、切なさ全開。(作曲は羽田一郎氏。) 自作詞(セルフ)時代の聖子ソングスの多くは、前半が良くても尻すぼみで終わってしまったり、ちょっと良いフレーズがあってもそれのリピートばかりで終わってしまったり・・・と消化不良の作品が少なくないのだが、この「たそがれにSay good bye」は、危ういながらも最後まで良いテンションの持続に成功しているように思う。俺にとっては90年代以降の聖子ソングスの中で、今もたまに聴き返したくなる数少ない曲の一つだ。
 さて、『We Are Love』を買って意気揚々と帰ってきた俺なのであるが、全編を通して聴いてみて、「たそがれ〜」1曲を除いては曲の出来が『Precious Moment』と大差なかったことに再び落胆することになるのだった...。これは聖子さん突然変異の1曲(あるいはビギナーズラック?)だったのか。そう思うと残念だ。