ある日の心の葛藤、神様、ありがとう。

 先日、仕事帰りに夕食の買出しをしようと思って、スーパーに寄った。
 財布をチェックしたら現金が2千円しか入ってなかったので、買い物するには微妙だナ、と思って、まずスーパーの中に設置されているATMに行った。まだ給料前だったので、無駄遣いしないよう、とりあえず現金1万円だけ引き出すことにした。スーパーに入っちゃうと、どうしても「あれもこれも」になっちゃうからね。
 そのとき、俺は帰りの道すがら、最寄駅からずっとヘッドホンで音楽を聴いてたのね。シャッフル再生。聖子ちゃんの次にジャネットがかかって、その次はワオ、なんでウルフルズなの?みたいな感じでね。ルンルン気分(笑)。
 で、買い物してレジで清算したら、総額2千円ちょっとだったのね。あ〜よかった。現金下ろしといて。。。そう思ったのもつかの間。
 財布の中には千円札が2枚しか入ってない!!! なぜ?いったいなぜ??
 何度も財布を隅々まで探してみたが1万円札は見当たらない。そして、記憶を辿る・・・そうだ。ATMからカードと明細だけ抜いて、財布の中にしまって、肝心の現金を取り忘れちゃったんだ!
 「現金のお取り忘れにご注意ください
 いつもは機械のお姉さんの声に「そんなやつ居るわけないだろ!」と心の中でツッコミを入れていた俺。その俺が・・・やっちまった!そうなのだ。ヘッドホンステレオを聴いていたおかげで、ありがたいお姉さまの忠告が耳に入らなかったのだ!
 幸い、小銭の持ち合わせがあったのでその小銭と手持ちの2千円で何とかレジで清算をし、ATMまで急いで戻った俺。
 そこに現金が残っているわけもなく、近くにいた店員に、「現金取り忘れちゃったんですけど・・・」と間抜けな告白をする。女性店員は忘れ物コーナーまで行って調べてくれたが、そのような届出はございません、と済まなそうに戻ってきた。「よろしければ遺失物として登録いたしますのでサービスカウンターへどうぞ」と言われたが、もはや見込み薄なので、それは固辞して店を後にした。
 給料日前に貴重な1万円を失って悲嘆に暮れる俺の頭の中には、通りすがりにピーピー鳴りながら口を開けているATMを発見し、そこに挟まった1万円に驚きながらも、周囲を見回しながらそっと抜き取る「主婦」の姿がありありと浮かぶ。コドモを何人も抱え、自分の身だしなみにさえ気が回らないようなだらしない身なりをした、家庭を顧みない夫に不満を抱えた「ある主婦」のスガタが・・。く、くやしい、あんな「主婦」に大事な1万円を盗まれるなんて!頭の中にはすっかり悪役になった空想の主婦が出来上がっている。
 スーパーの袋を下げ、肩を落としてとぼとぼ歩きながら、40男の空想は続く。
 ふと、別な想像が。いや待てよ、もしかしたらコイズミ改革のあおりで亭主がリストラに遭って一家心中寸前の「ある主婦」が、俺の1万円で生き延びたってこともありうるぞ。俺、もしかしたら、知らず知らずに人助けをしちゃったのかも。俺、感謝されちゃってるかも?なんて。そこには一変、仏壇に1万円を供えて手を合わせる割烹着を着た「主婦」と貧しい家族の姿が(笑)。
 結局、ノー天気な俺は、後者の解釈を採用することにして、自分の間抜けさから生まれた大失態を「心温まるエピソード」に都合よく仕立て上げて自己防衛を図ることにした。だってさ、そうでもしなきゃ、悔しくて眠れないもの!
 さて後日、無事給料が入ったので銀行で通帳記入してみると、同日付けで出金:1万円、入金:1万円の記載が・・・。ありゃ、あの1万円、そのまま機械の中に戻ってたのね。。。。さすがATM、良く出来てるわ。あははは。