このごろのカバー・アルバム 2題

 カバー・アルバムについてはここでも書いたけど、俺としてはあんまり積極的に聴くことはないのよね。カバー、というのはあくまでもアルバムの中での光る1曲、という感じが理想で、1枚まるまるカバーとか、ましてや何枚もシリーズでリリースとなると、どうしても「手抜き」としか思えない。もちろん、意表を衝くアレンジや新解釈のボーカルでそれぞれ頑張っているのはわかるのだけどね。
 そんなスタンスのhiroc-fontanaだったのだけど、今回に限っては素直に「イイわコレ!」みたいなカバー・アルバムに出会ったような気がするので、紹介しようと思ったのだ。それも、2枚も(笑)!
 まず1枚は『男と女〜Two hearts Two Voices』、稲垣潤一どす。男と女-TWO HEARTS TWO VOICES-これはね、企画の勝利でしょう。カバーアルバムっていうのはヘタをすると「芸能人のカラオケ大会」に陥っちゃう危険性が常にあると思うのね。気持ちいいのは歌っている本人だけ、みたいな退屈なシロモノね。そこからするとこの作品は、J.I+11組の女声ボーカル、ということで「次は誰とデュエット?」というワクワクで最後まで聴き通せちゃう。またその人選がツウな感じで、小柳ゆきとかアヤヤとか露崎春女大貫妙子にアキナ!そしてわが太田裕美さん!といったラインナップで、ぶっちゃけ、旬な人たちとは言えないのだけど、その分なかなか聴くチャンスのない声がイッパイで新鮮(笑)。もちろん俺は裕美さん狙いで手に取ったわけだけども(裕美さんイイ仕事してますよ)、それを抜きにしてこれは当たりの1枚でした。
 基本的にJ.Iの少年のような声は女声ボーカルと絡み易いようで、そのハーモニーはとても心地よいし、単純に3度とか5度とかでハモるのではなくてJIが上になったり下になったり、密着度の高い声のカラミ具合がなんとも言えない色気を醸し出しているのよね。その意味でアルバムタイトル『男と女』というのは、「お見事!」と思わず拍手したくなる。
 このCD、実際にヒットしているみたいだけどね、でもちょっとこのジャケット、なんだか「徳永英明」に見えない?「VOCALIST」と間違えて買っちゃったおばちゃんとか、きっといると思うのだけど、どうかしらね・・・。それも巧妙な作戦かしら?(笑)
 さてもう1枚紹介するのは岩崎宏美さん『Dear Friends IV』。Dear Friends ?ウタの巧いポップス歌手として間違いなく5本の指に入るだろう人ですからね、彼女がカバーアルバムに行き着くのは当然とは思うのだけど、宏美さんは巧すぎるので逆にどんなウタにもインパクトというか「引っかかり」が欠けてしまって、過去の『Dear Friends』シリーズはどれも俺にとっては「BGM」以上の作品にならない感じがあったのね。
 今回の第四弾は、大好きな「明日」を取り上げてくれるというので、聴きたいとは思ったのだけど正直、あんまり期待はしてなかった。でもね、今回のはホント、イイです。今までのDear Friendsとの違いは何?と訊かれてもはっきり「ここがいい」とは言えないのだけど、おそらく宏美さん自身の重ねてきた年輪のせいなのかな?なんて思ったのだ。とにかくシンプルなアレンジに載せられた言葉、その伝わり方がすごいな、と。そんな印象で何気なくネット検索してみたらこちら(「T2U音楽研究所」)に詳細解説がありました。以下、引用させていただきます。

“ささやかだけど素敵な人生”という軸が1本通っていて、4作中 最もゆったりと聴きやすいアルバムとなっています。
 特に、これまで以上に変わったと感じさせるのがアンプラグド中心の演奏面で、時代に逆行しています。(制作費もかかるはずなのに(微笑))でも、こういった生音にこだわったからこそ、「生きていること」「生きていくこと」がよりリアルに響くし、こうった作品の方向性も昨年の『PRAHA』レコーディングの賜物でしょうか。
 そんな演奏に伴って、ヒロリンの歌い方も、前作の「今年の冬」や「雪の華」、更には「つばさ」のような実験的&挑戦的なものはなく、ひたすら作品に、そして自身の美声に忠実な仕上がり。だからこそ、言葉の意味をより噛みしめるような歌い方で、聴き手により近いところで歌ってくれているように感じさせます。

 うん、まさしく、そうだと思います。特にエンディングに収録された大作「人生の贈り物〜他に望むものはない〜」(さだまさし・楊姫銀のカバー)。この豊潤なウタ世界は、カバーだのオリジナルだのいう括りにこだわっていたことが、バカバカしくなるくらいの衝撃でした。「並んで座って沈む夕陽を一緒に眺めてくれる友がいれば/他に何も望むものはない/それが人生の秘密/それが人生の贈り物」。これにhiroc-fontana、思わず涙ウルウル。
 ところで、先に紹介した『男と女』には竹内まりやの「人生の扉」がカバーされているのだけど(Duet With白鳥英美子&マイカ)、この人生賛歌に稲垣さんのシャイな感じのボーカルがとてもマッチしていてイイのよね。本家のまりやバージョンでは、上から目線で人生肯定しちゃうから、どうしても反感を感じてしまった俺なのだけど、今回別なボーカルで聴いてみて改めて、いいな、と思えたウタ。
 そしてね、稲垣さんも宏美さんも、こんな渋いカバーアルバムで二人して人生を総括するようなウタを歌っちゃうという、この時代。何だか寂しいような嬉しいような複雑な思いに浸ってしまう中年ゲイなのだ。
 ついでに、今回紹介したこの2枚、両方とも今井美樹の曲を取り上げていたり、アキナつながりがあったりハイ・ファイ・セットつながりがあったりで、セットとして聞いても違和感のない2枚だったりします。余談だけどね。