あなたこそアイドルの中のアイドル〜榊原郁恵

郁恵自身-25th Anniversary Edition-
 歌謡曲好きを標榜するブログとしては、70年代アイドルを語るとき、やっぱりこの人に触れないわけにはいかないかもね。ということで今回は榊原郁恵ちゃんです。
 郁恵ちゃんといえば、なんと言ってもその魅力は「スマイル」と「ボインな健康美」よね。いわゆる「清純派」とはちょっと違うけれども、その天真爛漫なキャラクターは翳りや暗さを少しも感じさせなくて、アイドルとしての旬を終えてからも瑞々しさを保ったままで活躍を続けてられてきたあたりは、やっぱり郁恵ちゃんこそ「アイドルの中のアイドル」だったのかもな、なんて思うのだけど。
 デビューは1977年1月。しかしデビュー曲「私の先生」は、プロダクションの猛プッシュにもかかわらず最高位55位・・・。続く「バス通学」「わがまま金曜日」の最高位もドングリの背比べで、ようやくヒットらしいヒットになるのは4曲目「アル・パシーノ+アラン・ドロン<あなた」(←それにしてもすごいタイトルよね)の最高22位。この曲のヒットで年末の新人賞レースにも何とか滑り込みセーフだった郁恵ちゃんなのです。
 1977年といえば、PLやらモモエさんやらジュリーやら新御三家やらキャンディーズやら、70年代を代表するアイドルたちが一斉に充実期を迎えてヒットを量産していた時代だから、俺のイメージでは「70年代アイドル実りの年」みたいな捉え方だったのだけど、同じ年にデビューした郁恵ちゃんの1年目の苦戦ぶりを振り返ると、どうやら1977年こそ、70年代終盤(78〜79年)のアイドル氷河期のスタートの年と考えるのが正しいのかもしれない。そう、郁恵ちゃんはデビュー2年目の1978年にトップアイドルとしてブレイクを果たすわけだけど、代表曲「夏のお嬢さん」でさえオリコン最高位11位に終わったという事実からもわかるとおり、その活躍期は常に「空前のニュー・ミュージック・ブーム(=反アイドル)」という逆風に晒されていたのだ。
 さて、そんな郁恵ちゃんだけど、77年から81年の「太陽のバカンス」まで足掛け5年間、実にコンスタントにオリコン30位以内のスマッシュヒットを出し続けてまして、これで時代が時代なら確実に時代を担うA級アイドルになっていたのじゃないかな、なんて思うのだ。しかし世間的にはたとえ贔屓目に見られてもせいぜい「夏のお嬢さん」の一発屋さん、よね。郁恵ちゃん、じっくり聴けばウタの表現力もそこそこあるし、曲も粒揃いなのに、バラエティの印象が強いからか歌手としての評価はあまりに低いのが残念だし、何より本人が「それで良し」という人の好さをここでも発揮しちゃってる感じがするのが口惜しいのよね。
 そこで郁恵ちゃんのディスコグラフィをひっくり返して、忘れ去られた(笑)その粒よりの曲たちを掘り起こしてみましょう。

  • めざめのカーニバル」(’78.4)「夏のお嬢さん」ブレイク寸前の勢い溢れる名曲。郁恵ちゃんのはち切れんばかりのエネルギーが、マイナー調の疾走感のあるメロディーに乗って突っ走る。最高位16位。
  • Do IT BANG BANG」(’78.10)明るく弾むメロディーで屈託もなく「好きならいいのよ・はやく野性に戻って・ドゥ・イット・バン!バン!」だものね。初期はこんな際どい歌詞も郁恵ちゃんのウリでした。最高位15位。
  • 青春気流」(’79.4)この曲、大好きなんですよね。馬飼野康二さん独特の、おいしいメロディー詰め合わせ状態の曲。のちの河合奈保子作品のプロト・タイプでしょうこれは。最高位21位。
  • 風を見つめて」(’79.12)尾崎亜美作品に挑戦。瑞々しく上品な曲調が意外なほど郁恵ちゃんにマッチして、コレが俺のイチバンのオススメなんだけど、案の定ファンには余り望まれていなかったらしくて、セールス的には苦戦。最高位33位。
  • イエ!イエ!お嬢さん」(’80.3)続いてはユーミン。こちらはノリノリの曲調で従来の郁恵ちゃんイメージ+ユーミンブランド力からそこそこヒット。この曲、余り仕掛けはないのだけど、やっぱり独特の「引き」がある感じがいい。でも「お嬢さん」シリーズの「柳ドジョ」タイトルだけは減点ね。最高位28位。
  • 夢見るマイ・ボーイ」(’80.9)初の筒美作品で見事にスマッシュヒットした「ROBOT」(最高位22位)の後を受けて、次を期待したら何とも地味なオールディーズ風ロケンロー作品をリリース。なんで?みたいな。でもこんな郁恵ちゃんが好き(笑)。しかし実は、隠れた名曲っす、これ。最高位28位。
  • あなたは「おもしろマガジン」」(’80.12)作詞:糸井重里、曲調はテクノ・ポップ。これは「TVの国からキラキラ」の原型でしょう。尾崎亜美がらみもあるし(モノマネ歌合戦の司会者だし)、やっぱり郁恵フォロワーはイヨちゃんだったのかしらね、ということがわかる1曲。最高位40位。
  • 太陽のバカンス」(‘81.6)ふたたび筒美作品。夏ウタでありながらこちらはロカビリー調のマイナー・ポップスで、郁恵ちゃんの大人びた声の、その成長ぶりにハッとさせられる名曲。最高位24位。

 さて、その後はニュー・ミュージック系のアーティスト達と組んで、80年代後半までオトナっぽい歌を中心にリリースを続けていく彼女だけど、セイコをはじめとする80年代型アイドルが一世風靡したあと、おニャン子が出現したアイドル終末期の85年に「女友達(ゆうじん)代表」をポッとヒットさせたあたり、「しぶといわ、やっぱり・・・」と思わせる郁恵ちゃんなのだ。きっと、これからもしぶとく、生き残っていくことでしょうね(笑)。