まるで純度の高いハチミツ〜『いきる』由紀さおり

いきる

いきる

 この作品、「ナツメロ茶店」さんで少し前にリリース情報が紹介されて以来「これは聴かなくちゃ」と楽しみにしていたのよね。由紀さおりさんのニューアルバム『いきる』。(このジャケットも素敵でしょ?)
 そしてワクワクしながらCDをトレーに乗せてプレイボタンを押して、1曲目「しあわせ」が流れた途端「す、すごい・・」と、しばし放心状態。そしてそのあとはもう、むさぼるように最後まで聴き通してしまった。
 そのボーカルは、相変わらずなめらかで、コクがあって。
 まるで、純度の高い蜂蜜のようで。
 それでいて、表現はどこまでもシャープで切り口が鮮やか。
 まるで、よく出来たオムニバス映画を観ているようで。
 由紀さおりさんって、いつもどこかに昔ながらの日本女性ならではの「品のよさ」が漂っていて、おばさん特有の「しつこさ」がないのよね。そこがすごいと思う。俺が子供の頃に大ヒットしていた「夜明けのスキャット」も「手紙」も、歌謡曲というよりはカッコいいポップスのように聴こえたし、少し演歌っぽい「挽歌」とか「恋文」といったヒット曲にしても、格調高く仕上げてしまう。どんな歌も、由紀さおりさんが歌うだけで純化される感じ。
 女優としても助演女優賞を受賞した「家族ゲーム」以来、少しとぼけたような味わいで演じる「昭和のフツーのお母さん」ぶりが絶品で、由紀さんが出てくるだけで画面全体が何ともほのぼのとしてくる感じがするのよね。(俺としては、何と言っても「ドリフ」でのコメディエンヌの印象が強いのだけどね。)いずれにしても「誰からも嫌われないキャラ」であることは確かで、その根底にはやっぱりご本人の「品格」のようなものがあるように思えてならないのよね。
 さて、すでに還暦を迎えられた由紀さおりさんが、世界が終わってしまいそうなこの酷い時代に、突然こんなアルバムをポトン、と産み落としてくれたことに、ただただ感謝。
 アルバムの紹介は是非この特設サイトをご覧くださいませ。
 「哀しみのソレアード」の歌い出しでの、エディット・ピアフばりの老婆のような声に驚かされたと思えば、「チューリップのアップリケ」では、貧しさの中で途方に暮れるいたいけな少女のつぶやきが聴こえてきて、ここでの由紀さんはまるでイタコのよう。それでいて、ここぞというところで、昔と変わらぬ透明なファルセットをバッチリ堪能させてくれるのよね。全く、期待を裏切らないのがスゴイ。
 そして、俺がイチバン好きなのは、この曲。

 あなたと 歩いた しあわせ   あなたと 見つけた しあわせ
 あなたと 暮らした しあわせ  あなたと 出会った しあわせ
                   「しあわせ」詞:本堂哲也

 この曲の歌詞が、沁みるのよね・・・。幸せだったころの家族の顔や、とても好きだったけど今では逢えない恋人との思い出や、もう、聴いているだけであれこれ色々な事が浮かんできて、最後はいつも由紀さんと一緒に
「このまま 静かに 泣かせて・・・」
 と歌っている自分がいたりするのだ。
 俺もいつの間にそんな年齢になって、そしてこの作品に出会えた・・・
 この しあわせ。