南沙織「女性」〜イージーリスニング歌謡の傑作

hiroc-fontana2009-04-02

 1974年の暮れも押し迫った12月21日発売。南沙織13枚目(臨発のカバーを含めると14枚目)のシングル。作詞:有馬三恵子、作曲:筒美京平、編曲:高田弘。この曲、ハンパじゃなく大好きだったのよねえ〜。たしかお正月番組で沙織さんが着物を着てこの歌を歌っていたのをテレビで初めて視たとき「なんてイイ歌なんだろう」と思ったんだっけ。振り返れば俺が小4の春。こんなフェミニンな3連バラードに心動かされるなんて、なんとマセた(ある意味キモイ)オトコノコだったんでしょ。。。
 背景としてはおそらく、姉の影響で当時よく聴いていたカーペンターズサウンドをイメージさせる曲であること(もともと南沙織とカレン・カーペンターは声の輪郭がはっきりしていて、ボーカルの特徴が似ていると思うのだ)が一つ。
 そしてもう一つは、たとえばこの曲をオーケストラが演奏したとしたらそのまま「イージー・リスニング」の範疇に入ってしまう、ということ。つまりね、70年代の中ごろ、当時の平均的家庭では一家に1枚というカンジで、必ず「カラベリ・グランド・オーケストラ」とか「ポール・モーリア」とか、いわゆる「歌のないポップス」のレコードが備え付けられていたのよね。まあ、はっきり言って毒にも薬にもならない音楽なんだけど、これが家族で一同に会したときに家族みんなで聴けるBGMとしてもってこいだったという・・・それだけで重宝とされていた種類の音楽なわけ。
 つまりこの「女性」という曲、そんな当時のコドモにとっては、大人からも「これならOK」とお墨付きがもらえる非常に耳馴染みの良いポップス(=「イージーリスニング」)だったのではないかな、と思うのだ。
 実際この曲の、ストリングスを多用したアレンジは当時大ヒットしていたバリー・ホワイト「愛のテーマ」(伝説のFMラジオ番組「ジェッッット、ストリーーム!」で有名ね。)を彷彿とさせるし、冒頭の「♪雪解けの♪」という16分音符のメロディーなど、例えば太田裕美さんの「雨だれ」の冒頭
「♪ひとり〜 タララララララン
のピアノの合いの手(タララララララン)に近いのよね。たぶん、この曲のメロディーはボーカルをつけずに楽器で演奏しても(「歌のない歌謡曲」にしてしまっても)完璧に成立するメロディーだと思うのだ。本来それほどスケールの大きい曲なんだと思う。
 かといってこの曲に詞は全く不要か、と言えば、有馬三恵子さんの文学的な香りの高い歌詞も大きな魅力であったりして。

雪解けの せせらぎが大好き
そのやさしさ ときめき あたたかさ
何もかも 生まれているみたいよ
目覚めてゆく 春の日が見える

 なんとも、瑞々しい感性でしょ?そしてタイトルがズバリ「女性」ってのがまたニクイ。レノンの名曲「WOMAN」(1980)を5年も先取りしてる!有馬さんが担当した沙織さんのシングルは「17才」から始まって「純潔」「傷つく世代」「色づく街」「ひとかけらの純情」「バラのかげり」「夏の感情」と、タイトルだけ並べても独特の感性が光っていてスバラシイと思う。
 しかし残念ながらこの曲、当時人気に翳りが出ていた沙織さんにとって起死回生の一曲とはならず、オリコン最高位は初めてトップ20を逃す23位で、10万枚にも満たない中ヒットに終わったのよね。その残念な結果は、この曲をひとり応援していた少年時代のhiroc-fontanaにとってもちょっとした挫折感をもたらしてくれたわけで・・・。
 でも、いま聴いても名曲だと思う、やっぱり。↓