『神様のいたずら』

神様のいたずら

神様のいたずら

 デビュー25周年を迎えるのを前に太田さんが現役として完全復帰を果たしたミニ・アルバム『魂のピリオド』(1998年7月)。続いて発表されたのがこの『神様のいたずら』で、1999年4月発売。こちらも4曲入りミニ・アルバムの体裁で、前作『魂ピリ』が筒美京平松本隆太田裕美のゴールデントリオ復活が売りだったとすれば、この『神いた』はアレンジの萩田光雄を含めた太田裕美全盛期の布陣である「ゴールデン・カルテット」の再結集が売り文句だった。
 さて、『魂ピリ』の表題曲「魂のピリオド」は、メジャーとマイナーが絶妙にブレンドされた独特の筒美メロディーが冴え渡り、さりげなく男女の会話が盛り込まれた松本氏の歌詞も、計算され尽くされた中に深い味わいがあり、それはゴールデントリオの健在ぶりを宣言すると同時に、それぞれの熱い思いが込められた充実の逸品だった。「水彩画の日々」「ハーブの香り」そして「僕は君の涙」と、他の収録曲もすべて完成度が高く、ミニ・アルバムながらとても密度の濃い内容で、4曲でも「お腹イッパイ」な感じの1枚だった。
 それに続くこの『神様のいたずら』は、前作とは打って変わり、表題曲をはじめ肩の力が抜けた軽さが魅力の1枚であり、前作で一定の成功を収めたことによる余裕のようなものが全編に溢れていたような気がする。また、太田作詞&筒美作曲による「きっと天使」、松本作詞&太田作曲による「イルカが空を泳ぐ晩」、という新しい形のコラボが実現したほか、残る1曲「恋人たちの祈り」は初の外国曲カバーに挑んだりと、企画そのものにも多くの遊びと工夫が凝らされている。(ちなみにCD−EXTRAとして過去のジャケ写のアウトテイクなどの貴重な写真が多数収録されたり、初回版はピクチャー・レーベルだったりと、オマケも盛り沢山だったのよね。)
 ひときわ耳を引く表題曲「神様のいたずら」は、名曲「恋愛遊戯」の流れを汲んだ、細かい譜割りが特徴のアップテンポのポップスで、春風に桜の花びらがフワリと舞うような印象の、とっても春らしいナンバー。舌足らずな発音が長所であり短所でもある裕美さんにとって、「神いた」や「恋愛遊戯」のような細かい譜割りの曲は、成功すればシャンソンのような独特な味わいが出るものの、下手をすると発音の幼さ(または滑舌の悪さ)が前面に出て曲の雰囲気を壊してしまう恐れもあって、一種の危険な「賭け」のように思えるのよね。幸い「神様のいたずら」は、その不明瞭な発音が鼻歌みたいに聴こえて、逆に曲にいい意味での軽さを加えることになって、成功した例と言えるかもしれない(笑)。
 アレンジでは、「トン、トトン」と繰り返し刻む軽快なリズムが、「新幹線の中での昔の恋人との偶然の再会」(→それが「神様のいたずら」なわけね。) という歌詞のシチュエーションと相まって、時速300キロで走る新幹線の車輪の音のように聴こえてきたりする。
 一方、「新幹線の のぞみ で京都へ」で始まる歌詞は、「恋人よ僕は旅立つ 東へと向かう列車へ」(木綿のハンカチーフ)の後日談のように思えたりしてね。
 そして五線紙の上を軽やかに飛びまわる、浮遊感溢れるメロディー。それは低いベース音から高く飛んではベース音に戻り、飛んでは戻りを繰り返す構成で、まるで花から花へと飛びまわる蝶の飛翔をイメージさせるのだ。
 そんな風に、肩の力を抜いた軽さを感じさせながら、実はアレンジ・詞・曲と、職人たちの匠の技がギラリと光る、まさに「いぶし銀」の味わい。それがこの「神様のいたずら」という曲。
 発売は1999年。もう、あれから10年になるのね。時の経つのがなんと早いことか・・・。
 以下は25周年ライブの映像です。CDよりかなり荒い仕上がりではありますが、とりあえずリンク(汗)