「青空のかけら」斉藤由貴

hiroc-fontana2009-06-21

 前にもここにも書いたのだけれど、80年代中盤、聖子さんが結婚休業に入り、アイドル界はおぞましき「おニャン子旋風」吹き荒れる中、hiroc-fontanaにとっての心の拠り所、それが斉藤由貴さんだった。でもね、白状しちゃうと由貴さんをホンキで聴いていたのはアルバムでは『ガラスの鼓動』『チャイム』『風夢』までのアイドル時代が中心で、その後斉藤さんがアルバムアーティストとしてどんどんディープに自己を掘り下げていった、80年代後期からの一連の作品群は敬遠してしまったの。80年代後期にはセイコはすっかり復活していたし、俺自身プライベートでも社会人デビューして大忙しになっちゃった時期が、ちょうど斉藤さんがアイドル卒業したその時期と重なったこともあってね。
 この夏、そんな斉藤さんデビュー25周年企画ということで、全オリジナル・アルバムが紙ジャケで復刻されるというハナシ。あの斉藤さんの、大して売れなかった後期の作品まで、しっかりした形で復刻されちゃうんだものね。ホントにいい時代になったと思う。これを機に是非、後期のアルバムもしっかり聴き直さないと、と思っているhiroc-fontanaなのだけど・・・ちょっと、おサイフとも相談しないと。
 そんなわけで、今回は俺の大好きな曲「青空のかけら」について。
 1986年8月21日発売のシングル。意外にも彼女のシングルでは唯一のチャートNo.1獲得曲。作詞:松本隆。作曲:亀井登志夫、編曲:武部聡志

青空のかけら グラスへと浮かべ
一息に飲めば 真夏がしみてくる
       (詞:松本隆

 もうオープニングの詞から、青い空と海、燦々と輝く太陽が音の隙間からこぼれてくる感じ。職人、松本さんのこのイマジネーション、素敵すぎます。ヘッドフォンでこの曲を聴きながらキャンパスへ通っていたあの頃、俺の青春は暗かったけど(笑)、この歌の突き抜けた明るさにどれほど励まされたことだろう。

海沿いのアスファルト 靴を脱ぎ歩く
陽炎のタップダンス 生きてるって素敵

 靴を手に防波堤を裸足で歩く少女。足元が陽炎でまるでタップダンスしているように見えるのね(はたまた、アスファルトが焼けて本当にタップダンスみたいにスキップしちゃってるのかな?)。この躍動感もいい。でもね、「生きてるって素敵」と思っているこの主人公の女の子は、実は彼氏にさよならを告げたばかりなのだ。

Ah ヨットの帆に書いたGood-Bye
Ah 気付く頃ね 怒るかしら
追いかけても もうIt's Too Late
Dancin' In The Sky 大丈夫 だけど哀しいステップね
Singin' In The Sky でも平気 わがままな娘とあきらめて

そう、この歌に漲る「生気」と「爽やかさ」は、そんな「過去から吹っ切れたワタシ」だからこそ味わえる、軽やかな生命の躍動と、明日への希望が形を変えたものなのだ。一聴すると単なるアップテンポの爽やかなポップスでありながら、実はこんな毒が仕込んであるあたり、松本さん、サスガ斉藤さんの本質を衝いていると思うのよね。
 亀井さんのメロディーは、アップテンポで五線紙を下から上へと軽やかに飛び上がっていくような難しい流れなのだけど、斉藤さん、多少リズムに乗り切れないながらも(笑)無難に歌いこなしてます。相変わらず低音は一部声が出なくてぶっきらぼうにやっつけちゃってますが・・・。デビュー当初は、フワッと息を抜くような丁寧なファルセットが清楚な雰囲気を醸し出していた斉藤さんも、この曲の頃には高音を地声のままうまくカラダに共鳴させる術を習得しているようで、か細い「金属声」ながらも妙に耳に優しい、心地よいものに変化している。
 初期の斉藤さんといえばこの人、という感じの武部さんのアレンジも素晴らしくて、あくまでもシンセが主体ながら、タップの靴音あり、マリンバあり、サックスありで、ショウビズ的なゴージャスさ溢れる生音を効果的に使うことで、この曲のテーマである「生命の躍動感」を見事に演出しているように思う。
 漫画チックな青色のタイトル文字に、キュートなお下げ髪に白いワンピースの(サリーちゃん足もバッチリ(笑))斉藤さんをフィーチャーしたジャケットワークも素敵です。
 紙ジャケ復刻される『チャイム』で、この曲、また聴きたいな。