歌謡曲再発見!の年末

 あっという間に12月になって、もう一年の総決算の季節。そういえば俺は今年、どんな音楽に感銘を受けたのだったかしら、なんて振り返ってみようと思ったのだけど、びっくり。いわゆる旬なアーティストの新作はほとんど聴いてないってことに気付いたのだ。チャートに顔を出すようなアーティストでは、林檎ちゃんの新作をよく聴いたくらいで、あとは、セイコの再発アルバムだとか、ひっそりと発売されたアキナの新作とか、同じくファン以外には全く話題にもならなかった太田裕美さんの新曲とか、追悼!のマイケル・ジャクソンとか、そんな感じで。
 そんな中で、なんといっても今年の1枚は、これ。由紀さおりさんの『いきる』。由紀さんのデビュー40周年記念盤でした。これがあまりに素晴らしくてね。もちろん由紀さおりさんの長いキャリアによって熟成された豊潤な味わいも大きな魅力だったのだけど、作家と歌手とミュージシャンがそれぞれプロとして集まって、程よい分業体制のもとで一つの作品を作り上げていくという、かつて日本の流行音楽の主流であった「歌謡曲システム」の価値・良さを再確認させてくれる好盤だった。いきる
 そしてこの作品をきっかけに、11月に発売された由紀さおりさんの『コンプリート・シングル・コレクション』も入手。由紀さおり COMPLETE SINGLE BOX [ 由紀さおり ]初めて耳にする曲も沢山あったのだけど、由紀さんの場合、特に70年代初期の曲ほど新鮮な魅力がたっぷりで、今聴いてもホント、オシャレでステキな曲がワンサカあるのね。これがかつての歌謡曲なんだ!ということに今更ながら感動している俺なのだ。こんな曲たちがかつての日本の歌謡界にゴロゴロ転がっていたのなら、もうそれを掘り起こして堪能するだけで十分。もはや最新の音楽の流行を追いかける必要なんてないのでは?・・・そんなことさえ思っている2009年の年末なのである。
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 さて、今回はそんな歌謡曲三昧の毎日の中で再発見した、hiroc-fontanaイチオシの歌謡曲たちをできるだけ動画リンクなどを交えて紹介してみたいと思う。
 まずは前述の由紀さおりさん。この人、「夜明けのスキャット」と「手紙」の大ヒットがあまりに有名で、この2曲もとても洗練されたイメージがあるけれど、こうしたソフィスティケートされたポップス路線以外にも、「挽歌」や「恋文」といった純歌謡曲路線や、フォーク路線の拓郎作品「ルームライト」をはじめ、演歌、童謡までとても幅広いジャンルの曲をリリースしていて、これこそが「歌謡曲歌手」の真髄だと思うのね。そんな中でもやっぱり光っているのは初期のオシャレな歌謡ポップス。ドリーミーなバカラックサウンドにトリップさせられる「生きがい」も絶品だけど、素朴な歌詞とシンプルなメロディーにシャープなアレンジを施した大野雄二作・編曲の「故郷(ふるさと)」もオススメ。
 ソフィスティケーテッド歌謡として一部で有名なのは、筒美京平作品で西田佐知子さんが歌う「くれないホテル」。メジャー・セブンス・コードを多様したメロディーと、シンプルながら研ぎ澄まされたアレンジ、サウンドは完全に洋楽のようでいて、西田さんのボーカルが入ると完全なムード歌謡になる、このギャップがクセになる名曲。
 次に紹介するのは、島倉千代子さん。この方、小唄のようなコブシで軽めの演歌がお得意の純和風なイメージだけど、実は昔からジャンルを超えた音楽に取り組んで来られた、“アバンギャルド歌謡”の第一人者と言えるのかもね。お千代さんがマンボのリズムに乗せてコロコロこぶしをまわして歌う「ホンキかしら」を、あるコンピ盤で初めて聴いてノックアウトされた俺。そんな島倉さんがロス録音!で現地のミュージシャンをバックに歌ったというハマクラ作品「愛のさざなみ」は語り継がれる歌謡曲の傑作のひとつ。
 “アバンギャルド歌謡”で忘れてならないのは橋幸夫さん。この方も「潮来笠」なんかを歌う一方で、一部で有名な「メキシカン・ロック」をはじめとした“リズム歌謡”なるノリのいいコミックソング・・・いえいえ(笑)独創性あふれる歌謡曲の数々を世に送り出して来られたのよね。でも俺が大好きなのはさわやかな歌謡ポップスの「雨の中の二人」。抑えた感じのイントロから独特の世界を作り出している傑作です。
 次は、五木さん。いまや歌謡界の重鎮、大御所という感じのお方ですけど、デビュー当時は結構ホットでグルーヴィーな歌謡ポップスを歌っていたのよね。マニアックなファンも多い藤本卓也作品「待っている女」のスリリングなサウンドにやられます。
 布施明さんもカンツオーネ系の歌い上げ歌謡からフォーク、ポップスと様々に歌ってきた人だけど、初期の「そっとおやすみ」は大ヒットこそしなかったものの、今でも名曲として愛されているオシャレ歌謡の代表。
 いしだあゆみさん。筒美京平さんにとっての最初の歌姫。いしださんの曲には筒美さんのシュミが現れていて、なかでも「ブルーライト・ヨコハマ」大ヒットの後のどさくさに紛れてリリースされた「涙の中を歩いてる」は、そんな筒美さんのマニアックさがにじみ出たR&B歌謡の傑作です。
 筒美さんの流れで次は欧陽菲菲の「恋の十字路」。ロッカ・バラード歌謡は、のちに静香姐さんに引き継がれたけど、やっぱりエンタテイナー・フィーフィーのソウル・フィーリングには太刀打ち出来なかった。このあたりもやっぱりあの頃の歌謡曲の奥深さ、なのかもね。
 さて最後は小柳ルミ子さん。以前にもエントリーを上げたことがあるのだけれど、この人の醸し出す雰囲気、和でも洋でも似合うあのカンジ・・・これこそが歌謡曲!だと思うのよね。ルミ子さんがこぶしを回さないで朗々と歌う、ポップスでも演歌でもないウタの数々。それらはまさしく歌謡曲の王道。中でも俺が大好きなのは、地味だけど優しく温かいフォーク路線の曲。「思い出にだかれて」(←別の動画サイトにリンク)はヒットしなかったけれど、ルミ子さんの最高傑作だと俺は思ってます。この曲の作曲者が「およげ!たいやきくん」の佐瀬寿一さんだというのも、それこそ歌謡曲の奥深さそのものみたいで、何とも今回のテーマに相応しいでしょ?(ちなみにリンクしているのは以前にも紹介したことのある「桜前線」(これも名曲!)とのメドレーで、後半が「思い出にだかれて」です。)