誤解を解くことの難しさ

 先日、ひょんなことから、或る近しい女性(仕事関係)から「hiroc-fontanaさんって冷たいわ」と言われて、ショックを受けたことはちょっと前の日記に書いた。

 このハナシには続きがある。

 その後、この女性(60代)は、俺と顔を合わせても、ろくに目を合わせてもくれなくなった。以前はとても懇意にしてくれて、まるで親子のように接してくれた人だから、手の平を返したような態度だ。
 そして先日、ある会合の場で、俺は彼女から罵倒されるに至った。ほんのちょっとした連絡ミスで生じた混乱が、まるで俺ひとりの責任であるかのように、出席者全員の前で俺を批判する発言を繰り返したのだ。
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 始まりは、ほんの小さな誤解。
 仕事上のトラブルに直面していた共通の知人(彼女がとても敬愛している年輩社長)に対して、俺がとった行動・言動が、とても事務的だったという、そのことが人情派の彼女には許せなかったらしい。
 俺は、人間同士には踏み込んではいけない部分があると思っていたし、知人も男性だからプライドがあるだろうし、本人の自己解決が先決だと思った。俺が何かを手伝えるとしたら、トラブルが解決せずにあちらから協力を求めてきた時点だろう、と考えていた。そしてその時は精一杯協力しようと。
 しかし、それが彼女の目には酷く「冷淡」に映ったのだ。なぜ俺が共通の知人にそのような行動をとったのか、その理由や秘めた思いを彼女に説明しなかったこと。そこが、誤解の根源。ボタンの掛け違い。
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 その後は、俺という人間が「冷淡である」という先入観によって、彼女の頭の中では、俺のとった行動すべてが冷淡に見えてしまって、混乱やトラブルの原因はすべて俺の冷淡さが原因、ということになってしまったようだ。
 例えば単なる“連絡ミス”も、俺の説明があまりに事務的で、聴く人に合わせて分かりやすく話をしなかったからだ、ということになってしまう。
 あるいは、若い子がトラブルを起こしたとしよう。それは俺が愛情を込めてその若者に指導をしなかったからだ、という具合。
 「自分より人のために。強者よりも弱者のために。私はそう思ってるの。なのにhiroc-fontanaさんときたら・・。」
 以前は彼女と確かに“共有していたはず”の価値観も、罵倒の言葉の中では虚しく聴こえる。俺の中では、その価値観はいまも何ら変わらずに持っているのに。
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 そんな誤解をどうしても解きたくて、昨日、彼女に電話を入れた。
 このような事態を招いた責任はこちらにある。それを詫びたうえで、俺の言葉が足りなかったことで今の誤解が生まれていること、そして今まで彼女を母のように思って信頼してきたこと、その当人からひどく誤解されていることはとても辛い、などと訴えていたら、悔しくなって、いつの間にか涙で言葉が詰まってしまった。 
「私も少し言い過ぎたわ・・あなたが良いものを持っているのはわかってる。」
最後に彼女からそんな言葉が出てきたのは、俺が不覚にも泣いてしまったから。
 でも、彼女と俺との関係は、もう以前のものとは変わってしまった。
 俺はこれから彼女の前では、少しも気を抜けなくなってしまうだろう。会話、連絡、説明、言葉、言葉、言葉...。俺の言葉は足りているか?ちゃんと相手に伝わっているか?そればかりが気になるだろう。
 そして彼女は今も、虎視眈々と俺の中の「冷淡な部分」に狙いを定めている。それはおそらく、彼女の頭の中に出来上がった、完璧なストーリーだから。優しそうな仮面を被った、冷淡人間。自分とは違う種類の人間・・・。
 「少し言い過ぎたわ・・あなたが良いものを持っているのはわかってる。・・・でも、あのときのあなたはね・・・」
実は電話口での彼女の言葉はその後も続いたのである
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 一度生まれた誤解を解くのは、容易じゃない。
 それを痛感した出来事。