3作目の明暗〜『my Classics3』平原綾香

 震災で被害に遭われた皆様にお見舞い申し上げます。
 さて、神戸の震災でも「ジュピター」で被災者を勇気付けたヒラハラさんの新作が出ました。

my Classics3

my Classics3

 悪くないっすコレ。というか、とてもイイ。平原さんの身体が楽器になって、温かく響く低音から艶やかにピーンと突き抜ける高音まで、全部の声がホントによく“鳴ってる”感じがします。前作『My Classics2』では、鼻腔音で響かせるソプラノ発声を披露したり、ギター・アドリブをボイス・パーカッションで聴かせたりと、隠し技の数々で我々をアッと言わせてくれた平原さん。今回はまたまたグッと安定感を増したボーカルになって、正確な音程・リズムは言うまでもなく、声の表情も増して、なんだかすでに大御所感が漂ってきた気もする。
 ただ、ね。Part2の前作が余りに良かったから・・・そう、ちょっと期待はずれなところもあったかしら。もっと隠し技を小出しにして、今回のために残しておけばよかったのにね。今作ではビバルディの「春」、ショパン「別れの曲」といった超有名曲に加え、サティやラフマニノフといった小ジャレ系のクラシックもキャッチーで素晴らしいし、古い民謡から「ダニー・ボーイ」「グリーンスリーブス」も取り上げていて、選曲としては申し分ない。“Zuzuzuzu・・・”と熊蜂の羽音を超絶ハミングで聴かせる「熊蜂の飛行」もスゴイ、のひとこと。
 でも、どうしても『My Classics2』の新鮮なオドロキと感動には負けちゃってる気がする。熊蜂の羽音さえ、ギターアドリブをまねたボイス・パーカッションの二番煎じに聴こえちゃって。。。
 これって“3作目の難しさ”なのかも、て思ったのね。
 ヒット作に続編、その続編と続いて“3部作”になる、というのは音楽でも映画でもよくあるハナシ。うまくいけば4作目、5作目・・・となって、最後は寅さんシリーズになっちゃうわけね(笑)。
 その中で一番難しいのは、3作目じゃないかな?と俺は思ってるのだ。
 最近でこそ映画では最初からシリーズ化を前提に作られる作品も少なくないけれど、続編が作られるのは言うまでもなく、その作品(1作目)がヒットしたからこそ。その続編になるわけだから、一定の固定客が見込めるわけで、ある意味ラクな商売ではあるけれど、逆にその分期待を裏切られない厳しさもあって、ハードルは決して低くないと思うのよね。むしろ、高いハードルなのかも。だからなのか、作り手がどうしても頑張らざるを得ない“続編モノの2作目”には本編を凌駕するような佳作も少なくない。
 たとえば映画でいえばアカデミー賞の作品賞まで獲った「ゴッドファーザーPart2」とかね。「スターウォーズ帝国の逆襲」も「エイリアン2」も「ターミネーター2」もみんな、もしかしたら1作目以上に面白かったかもしれない。だからこそ、シリーズになって3、4・・・と続いたのよね。そう、2作目がとても良くできていたから。
 で、これらがすべてシリーズ3作目も素晴らしかったかというと・・・???なわけで。まあ中にはイイものもあったかもしれないけれど、印象としては総じて薄いよね。やっぱり、1作目を超えるために2作目で出し切ったアイデアが、どうしても3作目では尽きてしまうのかもしれない。
 もちろんそれが最終的に、送り手と受け手の馴れ合い&予定調和(スーパー・ワンパターン)にまでなってしまえば、それはそれで強いのかもしれないけれど。寅さんシリーズのようにね。
 さて、話はかなり横道にそれちゃったけど(苦笑)、平原さんの場合、2作目があまりに驚愕の出来だったものだから、この3作目はどうも正攻法すぎて大人しく感じられてしまっただけかもしれないのよね。このままライフワークとして某男性シンガーの「VOCALIST」シリーズとか某女性シンガーの「Dear Friends」シリーズのように定番化していくというのなら、それはそれでこれからは過度の期待はしすぎずに、選曲の妙を楽しみながら付き合っていけるシリーズではあるのかな、と。なんとなくそんな気もする。
 そうそう、今回の作品ではジャズ・スタンダードの「Someone to watch over me」がことのほか良かった平原さん、今度は是非ジャズに挑戦してみてはいかがかと。