裕美コラボの傑作「Banana Spirit」

KUROちゃんをうたう

KUROちゃんをうたう

 コラボといえば近頃流行りはアムロだけど、俺の大好きな太田裕美さんも、デビュー当初から色々なアーティストとのコラボ経験を重ねてきた人なのよね。
 古くは山田パンダや、「青春時代」を大ヒットさせた“森田公一&トップギャラン”とのジョイント・ツアーから始まり、毎年恒例となった女性アーティストオンリーの「ひなまつりコンサート」への連続参加は当然として、80年代にはギターのGONTITIや琴の沢田一恵、はたまたサックス奏者John Zornのアルバムにボーカル参加。90年代には自身のミニ・アルバムでゴスペラーズと共演したり、そして近年は伊勢正三大野真澄(元ガロ)とのコラボ、“なごみーず”の一員として全国行脚中。
 この活躍の幅広さはやはり、歌謡曲とフォークの橋渡し役的存在としてデビュー当初から一目置かれていた太田裕美さんだからこそ。
 「夜のヒットスタジオ」で歌謡曲歌手に挟まれていても、「ひなまつりコンサート」でイルカや尾崎亜美ら自作自演系アーティストに囲まれても違和感のない、そしてどんな場所にも溶け込んでしまう、そのさりげなくもオンリーワンな存在感はある意味ものスゴイことで、それは太田裕美という女性の、豊かで奥深い人間性に拠るところが大きいということはファンの贔屓目を除いても間違いないように思う。
 そんな彼女の人柄が表れている1曲がこの「Banana Spirit」。「プカプカ」で有名なシンガー・ソング・ライター、故・西岡恭蔵氏との共演作品なのね。
 この曲、西岡氏の妻であり97年に乳癌で亡くなった作詞家・KUROさんの追悼アルバム『KUROちゃんをうたう』(1998年)に収録された1曲で、太田裕美さんは81年の自身のアルバム『君と歩いた青春』の中の1曲「恋はミステリー」の詞をKUROさんから提供を受けたことの“恩返し”としてこのアルバムに参加。たった1曲のつながりにも関わらず、おそらく二つ返事で“いいわよ〜”という感じで(笑)参加したに違いないこの曲、その辺に裕美さんの人間性がにじみ出ているように思うわけ。
 もともとはNHKみんなのうた」で1980年に放送されたのがオリジナル。それを西岡氏のダンディーな声に太田裕美さんのスウィートな声を混ぜてカリプソ風味を加え、底抜けにハッピーに仕上げたのが98年版・デュエット・バージョンの「Banana Spirit」。
 これはね、何がすばらしいって、なんと言っても裕美さんの声、に尽きる。全盛期の彼女の声の素晴らしさは今さら言うまでもないのだけど、結婚・出産を経て復活した90年代以降の裕美さんの声は、爽やかなのはイイのだけれど何だかどこか油が抜けきったような印象で物足りなさを感じていた俺なのだ。たとえるなら全盛期の声をなめらかな「ソフトクリーム」とするなら、甘いけどさらっとした「ラクトアイス」みたいなね。まあ、年齢が年齢だから声量が落ちて声が細くなるのは仕方ないことなのだけど(・・・苦笑)。
 ところが、この「Banana Spirit」の歌声は全く別で、本当に高音も低音も久しぶりに良く“鳴っている”感じなのよね。まるで彼女の声が楽器のように聴こえる。バックや間奏では本物のクラリネットオブリガートを演奏するのだけど、裕美さんの声とクラリネットの区別がつかないくらいで(笑)。特に終盤の「バナ〜ナ〜、バナ〜ナ〜」から「ラララ〜」とハミングに移行するあたりの声、その太陽の光のようなキラキラ感が最高です。オムニバスアルバムの片隅に収めらた地味な1曲ながら、純粋に“声”がこんなに心地よいものなのだ、ということを改めて思わせてくれる、隠れた逸品。是非、一聴を。
 「Banana Spirit」←リンクしてます
 ♪こころウキウキアイスクリーム 
 相変わらず舌足らずな発音がカワイイ裕美さんが、この曲を一層明るく楽しくしてくれますよね!イェイ!