『J・エドガー』〜歪んだ正義、そして純愛

 友人に勧められて観てきました。ロードショー最終日に滑り込み(笑)
 レオナルド・ディカプリオ主演、監督はクリント・イーストウッド
 ディカプリオは今回も大熱演で、J・エドガーこと初代FBI長官エドガー・フーヴァーの生涯(20代から70代まで!)を見事に演じきってます。老年期はCGを使わない昔ながらのコテコテの特殊メイクで、フツーだったらそれだけで↓↓なカンジなのだけど、少なくともレオだけはそんな不自然さを感じさせなくて、次第に老獪になっていく主人公の人生を追っていくうちにふと、スクリーンの中で演じている人が彼(ディカプリオ)だというのを忘れてしまうほど。それは単純にスゴイことだと思う。
 そんな熱演も、先のアカデミー賞では「完全無視」だったのはご存知の通り。一方でサッチャーの生涯を描いた映画で本人を演じて主演女優賞をもらったメリル・ストリープ、両者には、どれほどの違いがあったのかしら。サッチャーはまだ観ていないから、わからないけどね。
 まあ、サッチャーとメリルがルックス・イメージ的に同ラインにあるのに対して、アメリカでは誰もが知る“20世紀の妖怪”的な存在、フーヴァー長官(こちらに写真あり)とディカプリオでは、あまりにイメージが違い過ぎて、アメリカ人観客たちには終始違和感がつきまとっていたことは容易に想像できるわね。例えば民主党オザワさんの生涯をモックンが演じるようなものでしょ?きっと(笑)
 近年のアカデミー賞は意外にゲイフレンドリーな印象もあったのだけど、さすがに本作はゲイ的要素がマイナスに働いた可能性も高いような気がする。確かに生涯独身だったフーヴァー長官にはゲイ疑惑があった(同じく独身だった副長官トルソン氏が公私にわたるパートナーだったとされる)としても、少しそれに焦点を当てすぎた嫌いがあって、それに尾ひれが付いた噂に過ぎないであろう「女装癖」さえもエピソードで挿入されるに至っては、ストーリーの流れの中でさすがに俺も違和感を覚えたのよね。(母が亡くなったあと、フーヴァーが亡き母の服とアクセサリーを身に着けて鏡の前に立つシーンがあるのだ。)いくらなんでも、ちょっと脚色しすぎでしょ、て。アメリカ人ほど、それを感じたんじゃないかな。
 でもね。
 俺としてはそれでも、この映画の主人公・エドガーには強いシンパシーを感じたのね。
 息子の弱さを認めず、それを「正しい姿に」矯正しようとする母親(007の「M」ことジュディ・デンチ(写真)が怪演)の、強い影響力(支配力)を受けて育った少年時代。自分の同性愛的傾向を知りながらそれを無理やり克服しようと無駄な努力を続けたあげく、内なる自分の“悪魔”と戦うために、彼は“正義”(あくまでイデオロギー的な正義)に自分の居場所を見い出し、それを拠り所に生きていくことになるのだ。そして遂にはFBIというオバケ組織を生み出すわけで。
 心の中の悪魔との戦いが、妄信的な潔癖症(正義感)となって現れてしまう。。。俺自身、10代のころは自分の中に芽生えた同性愛の部分がどうしても許せなくてね。かたや悩みもなく、隣でのんきに青春を謳歌しているクラスメートたちが皆んな、怠惰なお調子者に見えて許せなかった。こんな奴ら、相手にしていないで、俺はひとりで勉強して将来“大物”になって見返してやる!みたいなね(苦笑)。今振り返れば、それこそただの負け惜しみで、ホント歪んでたわよね。それでますます孤立しちゃうばかりで。(でもそれも自覚出来ないまま、暗黒の青春時代を過ごしたのだ。。。)
 話が逸れて、とんだカミングアウトになってしまったけど。。
 でも、そう!よくよく考えればこれ(内に潜む悪魔を「度を越した正義」のアピールで誤魔化すこと)って、まさにアメリカという国を象徴している気もするのよね。もしかすると、イーストウッド監督はダーティー・ヒーローであるフーヴァーという題材を借りて、それを描きたかったのかもしれない。
 
 さて、映画の中で描かれるフーヴァーとトルソン(見るからにゲイチックなアーミー・ハマー(写真)が好演)の純愛。ゲイ的に見れば“両想い”に至るまでがちょっと唐突な感じもしたのだけど、トルソンのさりげなくも唐突な「愛してる。」の告白に対して、一度は「ノンケ」を装って無視するフーヴァーが、トルソンを失いかけたときに思わずつぶやく「アイラブユー、アイ、ラブ、ユー・・・。」には、正直、泣けたわ。それと、スキャンダルには神経質であるはずのフーヴァーが、映画の中ではその強権を背景に半ば“公然の秘密”のままトルソンとのパートナーシップ関係を生涯貫いた事は、同じような“老いらくの恋”を続けている俺には、何だかとても嬉しく思えたりした。
 惜しむらくはフーヴァーが唯一心を許したとされる女性秘書、ナオミ・ワッツ演じるミス・ガンジーのフーヴァーへの献身的な振る舞い、その裏にどんな想いがあったのか。おそらく恋愛感情とは異なるそれについて、もう少し突っ込んで描いて欲しかった。重要なキャラクターだけに、もっと物語に深みが出たのではないかと。
 人知れずトラウマを抱え、純愛に憧れるアナタにオススメ。
 興味のある方はDVDまたはブルーレイが出てから、観てみてね(笑)