メモランダム

  • 理性

 3月18日の夜に放送されたNHKETV特集「生き残った日本人へ 高村薫・復興を問う」を観ました。遅々として進まない復興の現状と日本のこれからについて、いつもながら見事な洞察力で、しかし淡々とそれを語る高村薫さんに私は90分間、釘付けでした。
 1年前の震災直後、これを契機に日本を根底から変えることができるはず、否そうしなければいけない、と語っていた高村さん。しかし、1年を経過するなかで、それは不可能であると感じたと言います。(「あの時はやはり自分も少しばかり興奮していたのだ」と、率直に吐露する姿には、絶望感が滲み出ている気がしました。)
 経済的にも人口の面でもどんどん縮小していく過程にあるであろう日本、いまの日本には根底から仕組みを変えるような復興は、もはや出来ないのかも知れない。かつて阪神大震災を自ら経験した高村さんは、その当時の日本と今の日本では状況が大きく違っていることが痛いほどよくわかるのでしょう。とにかく、もうコンクリートで日本列島を要塞に改造していくようなお金も力も、この国に無いのだと。
 原発については、相次ぐ稼働停止のなか節電で昨夏を乗り切った経験から、私たちは既に原発が不要であることをある程度分かっているのと同時に、ある程度の不便さを覚悟しながらも「理性」を持ってそれを甘受できる私たちであることも学んでいるはず、ということで、つまりは理性を持って脱原発に向かわなければいけない、という主張と私は受け取りました。
 番組の最後のほうで出された、近い将来に人口が1億人を切り9000万人でこの国土に暮らすことを見据えると、震災で流された土地や原発で汚染された土地は「理性を持って」諦めて手放して(自然に還して)、その旺盛な自然の復元力に託すという選択もある、という見解にはとても納得させられるものがありました。そしてそうした土地にこそ、循環型自然エネルギー発電所建設など新たな可能性も生まれてくる、というものです。
 ところで私の職場に、家族ともども福島から移ってきた同僚がいます。彼の淡々と現実を受け入れて前向きに働く姿に常々感銘を受けているのですが、彼を見るにつけ、果たして震災前の状態に戻すことだけが進むべき道なのか、我々も真剣に一緒に考えなければいけないのではないか、と思うのです。

  • 家族

 NHK-BSで放送されていた「山田洋次監督が選んだ日本の名作100本〜家族編」の最終回は、その名もズバリ『家族』でした。1970年封切りの、いわゆる“ロードムービー”の傑作です。家族 [DVD]
 長崎県伊王島の炭鉱が閉山となったことで、炭鉱で生計を立てていた貧しい家族が北海道根室の牧場に移り住んでいる知人に誘われ、そこに新天地を求めて旅立つ過程を追った映画で、途中、大阪万博上野駅での“ゲリラロケ”を敢行していて(リアルにナマ倍賞千恵子を見て驚く人々が写っていたりする)、当時の日本の活力溢れる姿がありありとフィルムに焼き付けられています。それは、いま40代後半の私にとっては、涙が出るくらい懐かしい風景でした。
 1970年と言えば高度成長の末期とはいえ、まだまだこの映画のように貧しさと豊かさが隣り合わせだった時代。しかしある意味、現代と似通っている部分も多いようですね。ただ大きな違いは、その格差(光と闇)が縮小する過程にあった1970年代と、それが拡大するばかりの2010年代、そこです。
 映画の方は、旅の途中では悲しく辛いエピソードが続きながらも、最後には生命が一斉に萌え出したような輝きに溢れる夏の北海道で、新しい家族が誕生する喜びと期待感を持たせて終わります。
 そういえば私はこの映画、子供のころに茶の間で家族みんなと一緒に観たんだよな〜、ということを映画を観ながら思い出して、今は会えない家族の顔(大人たちはみな映画を観て目を赤くしていた)が次々と浮かんできてしまい、それだけで涙が止まりませんでした。

  • 告白

 ユーミンの97年作品『Cowgirl Dreamin'』。カゥガール・ドリーミン/松任谷由実いま、これをよく聴いてます。
 メガセールスの喧騒期を終えたユーミンが、「その後」の方向性に迷っていたであろうことが手に取るようにわかる作品ながら、私はそんなユーミンの良い意味でのナイーブさが出ているような気がして、結構好きな作品なのです。一見勇ましいアルバムタイトルや、白目を向いて靴擦れを直してるみたいな(笑)ジャケ写の一種の無防備さ(雑な感じ)は、その裏返しなのかしら、と。
 その中の1曲「告白」は、なんとゲイのカミングアウト・ソング。

はじめから わかってた かくせはしないこと
はじめから わかってた こんな日が来ること
Don't mistake tomorrow 云わなくちゃ
偽りは脱ぎ捨てて 自由のため
 
このままじゃ 何もかも 壊されていくこと
このままじゃ 永遠に結ばれないこと
Don't afraid of sorrow 恐れずに
告白はただひとつの絆だから
 
愛を測らないで 比べないで 禁断の愛などないの
           「告白」 詞:松任谷由実

 「告白しないと結ばれない」というのは、ノンケへの告白、という解釈になるわけで、フツーのゲイ(笑)からすれば滅多にないシチュエーションなわけですけど、たとえばセレブなユーミンがそうするのであれば、その告白はかなり有効なものになるでしょう、きっと(微笑)。そんな感じで多少、言葉が上滑りしている気もするのですけどね。「偽りは脱ぎ捨てて 自由のため」とか、「愛を測らないで」、2コーラス目の「苦しさをぶちまけて 自由のため」だとか、アクティブな言葉(とサウンド)にはたしかに勇気づけられるものがあります。
 春はもうすぐそこに来ています。前を向いていかなければ。今、そんな気持ちでこの曲を聴いている私です。興味のある方はこのアルバム、中古CD屋にも溢れてますから(涙)、ぜひどうぞ。