セイコ・アルバム探訪11〜『We Are Love』


 1990年12月10日発売の18枚目のオリジナル・アルバム。国内盤としては『Precious Moment』に続いて全作詞を聖子さん本人が手がけ、初めてプロデューサーの一人として本人が名を連ねている。オリコンアルバムチャートでの最高位は3位。
 全米進出アルバム『Seiko』が同年6月の発売だったこともあって、その影に隠れた形でファンからもほとんど忘れ去られたようなこの作品。プロの作・編曲家とセルフ詞の組み合わせで固めたアルバムは、聖子の全キャリアの中で『Precious Moment』とこの『We Are Love』の2枚のみであり、その意味では貴重な作品であるにもかかわらず、『Precious〜』で明らかになった“セイコが書く詞”の、松本作品とのそのあまりの落差(クオリティの低下)に大きな衝撃(ダメージ)を受けた(笑)、当時のファンの反応は当然のことながら冷ややかであり、当時のそうした経緯がトラウマとなったまま、今だにこの作品の評価に影を落としている気がしてならない。
 いま改めてアルバムを聴くと、その後の小倉良とのコラボによる総じて平凡で中庸な作品群と比較すれば、プロの作家の手による曲調の豊富さ(バラエティ)に加え、それらの曲に付けられた聖子の詞も、曲の多様さにつられてか(笑)舞台をハリウッドやアフリカに設定するなど、彼女なりに様々な詞世界を表現しようと努力した跡が窺え、それはそれで好感が持てたりする。あまり成功はしていないけどね(苦笑)。
 全体の印象は、さすがプリ・プリを手がけた笹路正徳氏がアレンジ&プロデュースしているアルバムだけあって、いかにも80年代末から90年代初頭だわ〜(笑)という感じの、キラキラシンセがうるさいバンド系サウンドが中心。一方それに乗る聖子さんのボーカルは終始安定していて、『Citron』以来の大人っぽい腹式発声と、ハスキーに甘える従来の喉声とをうまく共存させている印象でGOOD。美声期の聖子のボーカルを十分に楽しめる作品でもある。
 俺としてはもうひとつ、聖子さんの大人の色気が漂うジャケットと、シックな色使いのアートワークが好きな作品でもある。
 それでは曲紹介。全作詞:Seiko Matsuda、全編曲:笹路正徳

  • Listen!!(作曲:Achilles)

 オープニングはエイトビートの打ち込み系バンド・サウンド。うるさいアレンジと一体化したボーカルは、『Citron』に近いイメージ。イントロ&間奏で「The Boys of summer(D・ヘンリー)」っぽいフレーズが聴ける。作曲のAchilles(アキレス)は当時ソニーがプッシュしていた新進作曲家。現在も音楽プロデューサーとしてジャニ系アイドルなど幅広く曲提供しているらしい。

 シャッフルリズムのポップ・ロック。設定は朝の寝覚めのイチャイチャ。「♪ 指をからめて あなたの胸に そっと顔をうずめてみるの」みたいなね。間奏でおそらくジェフ君であろう男性とのラブラブ・カンバセーションも収録。やれやれです。高橋諭一氏は森高(「SWEET CANDY」等)の作曲をはじめ、ハロプロ系のアレンジャーとして活躍。サビの転調など、アイデア満載のメロディーが良い。

  • たそがれにSay Good-Bye(作曲:羽田一郎)

 過去に「セイコ・ソングス8」で単独エントリーを上げてます。冒頭の聖子さんの抑えたボーカル、寂寥感に満ちた詞ともに、聖子さんのセルフ時代を通じて5本の指に入る名曲(と私は思ってます)。羽田一郎氏は「はがゆい唇」など90年代を中心に幅広く活躍した作曲家。

  • レモンティーとチョコレートパフェ(作曲:尾関昌也)

 ちょっぴりユーロビート系フレイバーの煌びやかなポップス。抑揚のあるメロディーがクセになる佳曲。歌詞の方は「大人っぽくキメて、憧れの貴方にアタックするわ。だから今日はパフェじゃなく、レモンティー注文よ!」みたいな世界(苦笑)。でも聖子たんは主人公になりきって嬉々として歌ってます。そこが救い。作曲の尾関氏はWINK淋しい熱帯魚」を作曲した人。

 聖子さんとしては『SUPREME』収録の「チェルシー・ホテルのコーヒー・ハウス」的世界を狙ったのでしょうね。カフェで働く彼と結ばれるまでのエピソードを回想する世界は手垢まみれで新鮮味はないけれど、メロディーともに80年代聖子ポップスに近い世界で、それだけで好感が持ててしまうから不思議。ちなみにデビッド・リンチの2001年監督作「マルホランド・ドライブ」とこの作品は無関係です。当たり前か。

  • We Are Love 〜EngLish Version〜(作曲:鈴木祥子

 先行シングルの英語バージョン。美しいバラードの佳曲ながら曲調の地味さからかシングルは最高位16位に終わり、国内盤シングルとして初めてトップテン入りを逃した。こちらはアメリカでゲットした(笑)ジェフ・ニコルズ君とのデュエット・バージョン。聖子イングリッシュの上達具合と、ジェフの甘ったるいボーカルに興味のある方にオススメ。

 アップテンポのポップ・ロックで、懐かしやA〜Haを彷彿とさせる。『Strawberry Time』に収録されてもおかしくない感じで、こちらもかつての聖子さんらしい曲。痴話喧嘩のあげく、サンダルで飛び出したのに「ショーウィンドウに向かい無理して微笑み 「ごめんね」を言う練習よ」。あなたが大切だから、すぐに戻るわ・・・と、いつもながら変り身の早い、ポジティブ聖子たん。

 飛行機のジェット音にアフロ系ドラム、間奏では猛獣の鳴き声と、いかにもな音作りでアフリカを演出した異色作。「いとしいその胸に裸でとびこみたい 飾りなどみんな投げ捨てて 自然に生きてゆくの」と。聖子たん、原住民になるつもり?ジャケットのカーリー・ヘアはその伏線ね?みたいなね(笑)。作曲の上田さんは『ユートピア』収録の名曲「メディテーション」以来。ここでもフックの利いた美味しいメロディーを書いてくれてます。

  • Drive Me To The Sky(作曲:羽田一郎)

 ちょっぴりハードエッジなロック。おそらく意図的に扇情的シャクリ上げを使う聖子さんは80年代を代表する女性ロッカー、パット・ベネターとまではいかないまでも、なかなかなものではあります。歌詞の方は、真夜中に貴方のバイクで“Drive me To the Sky!”みたいな世界。

  • 浮気なMy Boy(作曲:笹路)

 ユーロ系のビート・ポップス。そういえば当時こういうサウンド、流行ってたわよね〜。「Citron」「Seiko」と続いた洋楽系の延長線上にある曲で、可もなく不可もなしという感じ。詞の世界は「浮気なアナタ、こんな可愛いワタシがいるのに、許せないわ〜」といつもの聖子節。トホホ。

  • Morning Beach 〜Spring Lakeにて(作曲:原田真二

 これは聖子の情感豊かなボーカルが光る名曲(歌詞の拙さにはこの際、目をつぶって。。。)と言って良いでしょう。「あなたと初めての 海への旅なのよ あなたと初めての 特別の出来事」という繰り返しのフレーズに呼応した、シンプルなメロディーのリフレインが、独特の説得力と哀愁を醸し出している。各コーラスの終わりでの“Wow Wow・・・”というスキャットも、この曲に更にセンチメンタルな余韻を残す感じで、良いです。