さよならをもう一度〜尾崎紀世彦

 ザ・プレミアムベスト 尾崎紀世彦昭和の名ヴォーカリスト尾崎紀世彦さんが5月に亡くなりました。
 最近、え!?あの人が?と驚かされる訃報に出会う機会が増えたような気がする。自分が歳をとったこともあるけれど、世の中の流れがあまりに速くて、あの人最近見ないな〜、なんて思っているうちに十年近くがいつの間に経過していたりするから、当人にとってはちっとも「突然」ではないのに、こっちが勝手にビックリしているだけなのかな、なんてことも思う。
 さて、キーヨ。つい懐かしくなって、彼のベスト盤を買って聴いてみた。
 上手いな〜、こういう歌手、いなくなったよな〜、というのが最初の感想で(笑)。とにかく器用で音楽的素養が半端じゃなくって、歌謡ポップス、バラード、カントリー、ロック、シャンソンまで、なんでも完璧に歌えちゃう。実際、このアルバムでも筒美京平センセの一連の王道歌謡ポップスを中心に、知る人ぞ知る“マンダム”の「男の世界」やらブラッド・スウェット・アンド・ティアーズの「Spinning Wheel」なんかをナチュラルなイングリッシュでシラッとカバーしちゃったり。英語でも日本語でもホント、カッコイイ。
 たしかに低音のオジサン声で、いまの流行りではないけれど、どんな曲もその声とテクニックでハイクオリティの一級品に引き上げてしまうような、圧倒的な魅力(&歌唱力)がある。とにかく、安心して聴けるのよね。ついロッキングチェアに座ったアタシ、バーボンのロック持ってきてちょうだいっ!みたいなね(笑)
 だから、“こういう歌手、いなくなったな〜”になるわけでね。要は、近代ニッポンにはもはや、アダルト・コンテンポラリー系歌手がいなくなった、ということよね。そもそも日本ではこのテの歌手は結局、キーヨが活躍したこの時代以降、ほとんど成功例がない。そんな意味で、尾崎紀世彦という人が鬼籍に入ったというのはまさしく、日本のポピュラー・ミュージックの系譜のある一系統に、確実にピリオドが打たれたことになるのかもな、なんてことも考えてしまった俺なのだ。
 さて、ベスト盤を聴いて改めてイイ曲だな〜、と思ったのが「また逢う日まで」の次のシングルとしてリリースされた「さよならをもう一度」。こちらも最高位2位の大ヒットを記録したわけだけど、曲はとってもベタな歌謡バラード。思えば、こういう“泣かせるツボ”がはっきりしたバラードも最近、なくなったよな〜、みたいな(涙)。

 ちなみにこの曲の作曲は筒美センセではなく、こちらも昭和歌謡の名匠・川口真さん。弘田ミコちゃんの「人形の家」や由紀さおりさん「手紙」といった、メロディーのはっきりした“イイ曲”をたくさん書いた人ね。アイドルにも、岩崎宏美「熱帯魚」やピンク・レディー「世界英雄史」、石野真子「めまい」や河合奈保子「愛してます」など、ワンポイントで印象的なヒット曲を書いたりしていて、俺としては筒美センセに次いで好きな作曲家なのよね。バラードでは中尾ミエの「片思い」とか、和田アッコ兄さん「コーラス・ガール」、色々な人がカバーした「五月のバラ」とかが有名だけど、キーヨの「さよならをもう一度」はまさしく、その系譜に入るスタンダードなバラード、という感じね。
 そんな、陰ながら昭和を支えたふたりの才能のコラボという意味でも、この「さよならをもう一度」は象徴的な曲かもね。
 そして尾崎紀世彦さんに。。。 “さよならをもう一度”。
 
↓ こんな曲もありました。最後のヒット曲「サマー・ラブ」。イイ曲です。