森高千里『The Singles』

ザ・シングルス(初回生産限定仕様)

ザ・シングルス(初回生産限定仕様)

 このベスト盤が売れているらしい。
 俺にとっては80年代のアイドルに比べてどこか存在に希薄さが漂う印象のモリタカだったのだけど、こうして改めて膨大な数のヒット曲を通して聴いてみて、その足跡の偉大さに今さらながらリスペクトを感じずにはおれない。そう、彼女こそ、唯一とも言ってよい「90年代アイドルの成功者」だったのだと。
 経済の停滞と反比例するかのように、メガヒットの連続で隆盛を極めた90年代の音楽界において、サザンやミスチル、ビーズにドリカム、チャゲアスにザードといったビッグネームがミリオンヒットを連発する傍らで、いつもちゃっかり常連顔で自分の居場所をキープしていたのが、森高千里。そこがナニゲにスゴイと思う。
 女性アイドルというジャンルに属する種族(笑)は当時すでに絶滅寸前の状態にあって、かろうじて聖子、明菜、キョンキョン、静香あたりが80年代の勢いで生き残っていた程度で、当時の女性ボーカリストでは大黒マキやら相川ナナセやら広瀬コーミやら、ルックスの可愛らしさよりも、個性(自己主張の強さ)で勝負するメンツが主流となりつつあったころ。しかし彼女らの多くも他者からの曲提供を受ける「歌手」であることに違いはなく、たまに自作自演とは言っても作詞のみであったりしたわけで、その意味でほとんどの曲を作詞してきたモリタカは、彼女ら90年代型ボーカリストと紛れもなく“同系”に属していたということなのだろう。
 その美貌と抜群のスタイルで、むしろそれをあざといまでにウリにした(ミニスカ&フィギュア)ことで世に出たモリタカは、しかし90年代に入ると素早く時代の趨勢であった“ナチュラル系”イメージに自らを転換して、見事に時代の流れに乗ったのよね。その一方で音楽はカラオケ仕様のシンプルかつキャッチーな路線に終始徹したおかげで、メガヒット時代の流れをうまく掴んでスマッシュヒットを連発。アイドル的な部分を残しながら、上手に90年代(=J-pop隆盛時代)的なイメージを取り込んで生き残ったことは、お見事、としか言いようがない。
 今回モリタカのオールタイム・ベスト盤がアルバムチャートのトップテンに入る大ヒットになったのは、その当時ドリカムやミスチルと同じような感覚で90年代アイドル・モリタカをよく耳にしていた“メガヒット時代の申し子”であるライトなリスナーたちが、こぞって買いに走った結果でもあるのかな?なんてことも思うのよね。
 さて、実際に聴いてみると、本当にあの、閉塞感がありながらもまだどこか気持ちに軽みが残っていた、90年代の音が詰まっている感じで、今となってはとても懐かしい感じがするのね。カゲキな「ザ・ミーハー」・「ハエ男」・「臭いものにはフタをしろ!!」の歌詞にドキリとし、歌謡ポップス系「17才」・「私がオバさんになっても」・「気分爽快」・「ララ サンシャイン」といったヒット群を思わず口ずさみ、牧歌的なフォーク系「渡良瀬橋」・「夏の日」「休みの午後」でホッと癒やされ、最後は後期の切な系名曲群「SO BLUE」・「銀色の夢」・「SWEET CANDY」らにタメ息をつく。彼女が世に送り出した曲の数々、軽いようで実はテンションの高い、名曲ぞろいであることに改めて気づかされる。
 鼻をつまんで歌っているようなその歌声は、初期はナンノ・後期はミポリンに似ている気もするけれど、これにドタドタしていながら何故か耳を惹く「森高ドラム」と、こんなのあり?的な意表を衝く展開満載の「森高リリック」が加われば、これぞオンリーワンの「モリタカ・サウンド」の出来上がり。

  • 「わたしただのミーハー! だからすごくカルイ 心配しないでね」(「ザ・ミーハー」)
  • 「この街が好きよ のんびりしてるから 魚も安くて新鮮」(「この街」)
  • 「そんな言い方平気でしてると おじさんと呼ぶわよ」(「臭いものにはフタをしろ!!」)
  • 「南風が夏の街を通り抜けてく 今年の夏も ああ 何もしなかったわ」(「SWEET CANDY」)

 すごいフレーズはまだまだあるけれど、俺が改めて特に気に入った歌詞は92年の15thシングル「コンサートの夜」。卒業式の帰りに皆で行ったコンサートの夜、その切ないエピソードが見事に切り取られているのよね。シンプルな言葉の中にあるこの説得力、改めて名曲だなと思った作品。曲と詞のマッチングも素晴らしいと思うのね。動画も貼っておきますが、珍しくモリタカが泣いてしまって歌詞が聞き取れないかも(苦笑)。でもこんな意表を衝いたまとめ方も、彼女らしいかしらね。

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