由紀さんの美しいにほんご〜『SMILE』由紀さおり

スマイル

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 由紀さおりさんの新譜。3月27日発売。
 一昨年、世界約30ヶ国で発売・配信されて、昨年にかけて大ブームになった前作『19691969(US盤)のあとでは、今回はPINK MARTINIとの共演もないし、選曲もどことなく中途半端だしで、何となく手が出なかったのよね、俺。どことなく“主演以外はガラッとキャストが変わってしまった続編映画”のような気がしてね(苦笑)。
 でもこのCDをいざ手にしてみたら大違い、本当に素晴らしくて、hiroc-fontana、忙しい毎日にもかかわらず毎晩ヘビロテ中なのです。
 「オー・シャンゼリゼ」やら「ウィークエンド(第三の男)」やらタイトル曲「スマイル」、「ユー・アー・マイ・サンシャイン」に、果ては「ムーンライト・セレナーデ」まで、まるでデパートのBGMのような曲(笑)が並んでいるのだけど、ポピュラーと言うよりも最早“スタンダード”な、これらの耳に馴染みきった(耳にタコができるくらいの)曲に、由紀さおりさんが日本語で歌う声が乗るとあら不思議、まるでかつての歌謡曲のように聴こえてしまうのよね。これは、アルバムのライナーノーツでプロデューサーの松尾潔氏も書いていることだけど、俺も本当にそう思ったの。それもライナーを読む前に、よ!
 これはね、やっぱり、もともと童謡歌手出身で、お姉さんの安田祥子さんとの長年に亘るコラボで童謡を歌い継いで来た由紀さおりさんだからこそ、なのかもしれないわね。キレイな日本語の発音で、耳に馴染んだキレイなメロディーを確かな音程で歌う。そう、それだけのことなのに、由紀さんが歌うと、ありふれた曲達が見事に生き返ってくるのだ。
 思い返せば、40周年記念の傑作『いきる』(2009年)にしても先の『1969いきるにしても、近年の由紀さおりさんはたとえ外国曲のカバーであっても常に“日本語詞=美しい日本語で歌の世界を伝えること”にこだわって活動を続けて来たわけで、それが世界に通用する取り組みであったことは、『1969』の大成功が証明したことになるわけね。
 そしてまた、今回も「女優の余裕」が炸裂。「ウィークエンド」、「セプテンバー・イン・ザ・レイン」(これが最高!)でもセリフの素晴らしさが際立ってます。聴くほどに上質な一人芝居を観ているような贅沢な気分にさせられるのだ。
 アレンジは中島美嘉の名曲「STARS」「WILL」の作曲でも知られる川口大輔氏。全編ジャジーでゴージャス、バラエティに富んだ編曲で華を添えていてこちらもGOOD。
 終盤には、PINK MARTINIのイケメンVo、ティモシー・ニシモトを今回も呼びつけて(笑)息の合った小粋なデュエットを聴かせてくれる「ナオミの夢」、すこしテンポを落としてシックに聴かせるセルフカバー「手紙」と続き、オーラスに心に沁みる最新シングル「愛だとか」。これがまた素晴らしくて。
 由紀さおりさんが声を伸ばしたときのファルセット、このふわっとすべてを包み込むような、甘やかで柔らかい響き。日本の宝ですわ。