これぞ伝統芸能〜セリフ歌謡の系譜
そもそも日本では「能」とか「歌舞伎」とか、言葉にただ節をつけただけのものが芸能として庶民に親しまれてきたわけで、それは「言霊の国」なればこそ、なのでしょう。
欧米の教会音楽〜クラシック音楽のように、和音の響きを愉しむような文化ではなくて、旋律のようなものは存在したものの、ここ日本ではあくまでうたの主体は「言葉」、それとそれにまつわる人と人の心の機微の表現だったのかも知れないね。
まあ、以上はhiroc-fontanaの思いつきの講釈であって、何も学術的な根拠はありませんので、あしからず。今回は「セリフ歌謡」を取り上げようというわけで、欧米ではほとんど見かけないのに、なぜか日本では確かにひとつのジャンルとして成立しているこの独特な世界、それを説明する前置きとして、勝手な理屈をこねてみました(笑)。
「セリフ歌謡」。あくまでも歌が主ではあるけれど、途中で挟まれるセリフ、それが結果的に歌を脇に押しやってしまっているような作品たち。それは戦後復興の時代、おもに50年代〜60年代の映画界華やかなりしころに全盛を迎えていて、主役の多くはそれら銀幕のスターたち。石原裕次郎さんの「嵐を呼ぶ男」(「チンだ!ボディーだ!」)とか、鶴田浩二さんの「傷だらけの人生」(「旧いやつだとお思いでしょうが」)とか、渥美清さん「男はつらいよ」(「わたくし、生まれも育ちも・・」)、加山雄三さん「君といつまでも」(「幸せだなあ」)など、セリフの長い短いはあるけれど数え上げたらきりがないよね。
そんな中で、女王、美空ひばりさんの「悲しい酒」の間奏でのセリフがなんと言っても代表格かしら。
歌もすごいけど、途中のセリフが加わることで、歌の世界が一気に深まる感じ。ひばりさんの鬼気迫る演技(と言って良いと思う)によって、まるで一遍の映画を見たような充実感に浸れる気がする。
70年代前半から中盤頃には、セリフ歌謡が一気にアイドル系の歌手まで広がる現象があって、当時、ブームのようになったのよね。代表作を挙げると
- あべ静江「みずいろの手紙」(「お元気ですか?そしていまでも・・」)
- 山口百恵「湖の決心」(「運命を信じますか?」)
- 森昌子「白樺日記」(「お兄さんと甘えてた」)
- 西城秀樹「ちぎれた愛」(「好きなんだよ〜!」)
といったあたりだけど、やはりこの人を忘れてはいけないわね。淳子さん。
まさに昭和独特のくさいセリフ回し。歌だけより説得力がある(苦笑)。淳子さんはこれ以外にも「花占い」というセリフ歌謡のヒット曲があります。
この時代、セリフ歌謡が流行ったきっかけは、たしか橋幸夫さん(あまちゃんでも大活躍!)「子連れ狼」(「五つ目の朝が、雨だった・・・」)だったように記憶しているのだけど、それ以外にも海援隊「母に捧げるバラード」とか、ダウン・タウン・ブギウギ・バンド「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」だとか、全編ほぼセリフ、みたいな曲が大ヒットして、ブームは続いたのよね。
そして80年代アイドルでは、まずはこれでしょう。
え?どかがセリフかって?あっはっはっは!って、これほどノー天気に馬鹿笑いできるのはトシちゃんしかいませんでしょ。でも、たしかにどこが歌でどこがセリフか、トシちゃんの場合、区別つかないかもね(笑)。
ライバル・マッチはまさに昭和の裕次郎や秀樹を踏襲したこんな曲をリリース。(2コーラス終了後にセリフ。)
昭和を引きずった大映ドラマ系では、こんな曲もリリースされていたのね。
あと、佐野量子さん「雨のカテドラル」なんてのも、マニアの間では80年代の代表的セリフ歌謡として有名らしいわ。事故で恋人を亡くした少女の独白、というスゴイ内容。
「鈴鹿ひろ美」役の好演で新たな地平にたどり着いた感のある80年代を代表する女優、薬師丸たんはこれね。「あなたを・もっと・知りたくて」。(「もしもし、誰だかわかる?」)。
さて、90年代のモー娘。は、もう、歌だかセリフだかわからないようなノリ一発の世界がウリでもあったわけだけど、これは純粋にセリフが入る1曲ね。
なんだかもう、懐かしいわね。
ということで、締めとして私の大好きな太田裕美さんのセリフ歌謡をご紹介します。実は演劇部出身の太田さん、舌足らずでたどたどしい口調ながら、なかなか熱が入った演技派の顔を見せてくれています。1978年のアルバム『エレガンス』収録の「天国と地獄」。今聴くとこれ、何だか色々と考えさえられる内容でもありますね。
そうそう、欧米では90年代以降、黒人音楽から派生した「ラップ」が猛威をふるってましたっけね!あれこそ、新しい「セリフ歌謡」、なのかしら(笑)。