夏の終わりに〜「冬の終り」(松任谷由実)
いじめられたり、いじめたり。程度の差や自覚・無自覚の違いはあれ、誰もが経験しているはずだと思う。
ユーミンの曲の中に「冬の終り」という曲がある(1992年のアルバム『TEARS AND REASONS』収録)。
帰り支度の教室で
ふいに手紙を渡された
いつから 口もきかない私達
もう長いあいだ
試験休みが明けたなら
あやまりたいと思ってた
あれから 顔を合わせることもなく
卒業してしまった
「冬の終り」 作詞:松任谷由実
胸がチクリと痛む。
この曲のストーリーを男女の関係で見るか、同性同士の関係で見るか、によってその世界観が大きく変わってくると思う。
男女の関係で見るならば、淡い恋の終わりのストーリー。
ただ、俺には理由があって、これは女性の主人公とその女友達との関係を描いた曲のように思えてならない。
ところでおそらくユーミンは、いじめられっ子ではなく、いじめっ子。あの気が強そうでいかにも才気煥発そうなルックスからも、揺るぎない自信に満ちた歯に衣着せぬ言動からも、それは疑いようもない。おそらくこの曲は、そんなユーミンの実体験なのではないか、と思うのだ。(本人はフィクションに決まってるわ、と否定するかも知れないけれど。)
頑張るあなたが憎らしかったの
置いてきぼりにされるみたいで
傷つけた 迷ってた
同じだけ淋しかった
(詞:松任谷由実)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
実は、俺にも、同じような経験があるのだ。小学生のころ。昨日まで仲良くしていた親友と、ある日を境に口をきかなくなった。
正確に言えば、俺が彼のことを一方的に「無視」するようになったのだ。
理由はなんだったのか、全く覚えていない。本当に些細なことだったのかもしれないし、或いは、俺自身が一日も早く忘れたい類の記憶だから、無意識にそれを消し去ったのかもしれない。
その日以来、彼から話しかけられても答えず、仲良しクループの中にいても彼からわざと視線を逸らしたりした。
引きつったその友達の笑顔が忘れられない。それは胸のしこりとなって、今も残っているのだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
冬の終りが来るたびに あなたの文字を思い出す
なんだか 鼻のあたりがつんとする
木の芽の香りかしら
夢見る私をまだ笑ってるの
ノートを借りたあの日のように
探してた 悩んでた
わけもなく不安だった
(詞:松任谷由実)
たしかにユーミンの曲の中では、この友達との関係はいわゆる「いじめっ子」「いじめられっ子」のそれではない。しかし、相手への理由もない嫉妬心から一方的に口をきかなくなった主人公に対し、(おそらく謝罪の)手紙をくれたのは友達の方からであり、力関係でいえば主人公(≒ユーミン)が上、だったように見える。
しかし、相手から手紙をもらってしまったことで、立場は逆転し、主人公には後悔ばかりが残されることになるのだ。
何を綴っても うそになりそうで
返事を出せず月日は流れ
なぜかしら どこからか ふと蘇える
あの頃の私達
同じだけ楽しかった
(詞:松任谷由実)
こんな綺麗事で終わるわけはない。
傷つけた、そのぶんだけ、自分を傷つけているのだから。
そして、自分の傷に塩を擦り込むことで罪ほろぼしをしたいから、敢えてそんな記憶を何度も反芻するのだ。「同じだけ、楽しかった」なんて、わざと思い出を美化しながらね。。。
- アーティスト: 松任谷由実
- 出版社/メーカー: EMI Records Japan
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