居酒屋パラダイス〜Lonesome Happyな空間

  いつ頃からでしょうか。ひとりで居酒屋に入るのが楽しみになりました。
以前なら、たとえ思い切ってお店に入っても、周囲のお客さんの目とか、店員さん(中にはカウンターの中に店主ひとりのような所もあるのですが)の表情を気にして、飲み食いもそこそこに飛び出したりしてしまっていたのですが、今では店主に図々しく「今日のオススメは?」なんて訊いている私がいたりします。
 それでも元来、見ず知らずの人と話すのは苦手ですから、たまたま隣に座ったお客さんと粋な会話を楽しむ…というような事は滅多になく(苦笑)、大概は一人ゆっくりとお酒やお料理を嗜んでいるだけなのですが、それだけでも充分にリラックスしてその時間を堪能しきっている自分に今さらながら驚いたりしています。
映画パンフレット 「新・居酒屋ゆうれい」 監督 渡邊孝好 出演 舘ひろし/鈴木京香/松坂慶子/生瀬勝久/中村有志/志萱一馬/名古屋章/津川雅彦
 何しろ、人間関係のうっとうしさが何よりイヤで、職場ではいつもガマンを重ねてストレスを溜め込んでいる自分が、そこから解放された途端、いつの間にまた、見ず知らずの人が集まるそんなお店に向かっていることが不思議と言えば不思議です。だって、一人になりたいなら、真っ直ぐ家に帰れば誰にも邪魔されない空間がいつでも確保されているわけなのですから。
 なぜ私が、“おひとりさま居酒屋”に誘われるのか。
 きっと歌にもよくあるように、何や彼や言っても人のぬくもりを欲している自分なのかもしれないとも思いますし、見ず知らずの人に紛れて、仕事のストレスで肥大化した自我を知らず知らず昇華したい欲求に駆られているのかも知れません。
居酒屋兆治
 休日に家に籠っていたりすると時々、居たたまれなくなる時があるのです。自分はこんなふうに誰にも思い出されないまま、死んでいくのかもしれない、なんて考えてしまったりして。そんな時、訳もなく人が集まる街中に出て雑踏に埋もれるだけで、何となくホッとしたりします。きっとそれと同じ感覚なのでしょう。
 まあ、ゲイである私には、ゲイの"おひとりさま"が集う場所「ゲイバー」なるものが幸い東京ならあちこちにあるわけで、ちょっと前の私もよく足を運んだりもしました・・・(汗)。でも、ゲイバーのマスターやお客さんとのやり取りも、最近は正直だんだん億劫になってきて(集まる人達の目的もそれぞれですからね・・笑)、五十路を越えた今の私には断然「居酒屋」さんの方が、しっくり来るのです。
 居酒屋に独りで入ると、そんな“同志”ともいうべき中年男性を沢山見かけたりします。皆さん、誰に話しかけるともなく、ある人は店の隅っこのテレビをぼんやり眺めながら、ある人は他の客の会話を盗み聞きながら(苦笑)、多くはただ黙々と盃を傾けています。まるで皆申し合わせたように、決してそれぞれの土俵に踏み込むことなく、日常から少しだけ離れたこの穏やかな空間を共有する事、そのためだけに集まっているかのようです。
ひとり旅 [EPレコード 7inch]
 時代劇を見ていても、酒場の場面がよく出てきたりします。そして日本に限らず、バーやパブのようにお酒を飲むための場所は時代や空間を越えて存在しますから、きっと、人間が生きていれば必ず求められる場所、それが居酒屋なのかも知れません。
 さあ、今日はどこで、何を肴に、どんなお酒を飲みましょうか・・・。
 
↓「ひとり居酒屋系」の名曲です