クラシカルな名作に見る“ゲス不倫”〜「アパートの鍵貸します」&「ゲームの規則」

 金曜・土曜と連続で飲み会の約束をしていたのが、どちらも先方の事情でキャンセルになってしまい(涙)、今週末はひとり、家でゆっくり映画でも観ようか、と考えた。19日の金曜日の宵にNHK-BSで俺の大好きな「アパートの鍵貸しますアパートの鍵貸します [Blu-ray]が放送される情報を得ていたので、久しぶりに夜更かししながら、酒を片手に傍らに美味しいツマミを用意して、カウチポテトスタイルでじっくり大好きな古い映画を観るってのもいいかな〜、なんて。
 「アパートの鍵貸します」は1960年公開のラブ・コメディの傑作で、監督・脚本は名匠ビリー・ワイルダー、主演はジャック・レモン、ヒロインがシャーリー・マクレーン。俺、この映画がずっと前から大好きで、VHSビデオも買って何度も観ているのだけど、残念ながら引越しして以来アナログビデオ鑑賞ができる環境に無いので、観るのは本当に久しぶりだったのよね。
 それで、何年ぶりかに観たこの作品、シャーリー・マクレーンの天使のごとくキュートなスマイルや、こじゃれたネタがあちこちに仕込まれた脚本の素晴らしさに改めて感動したのだけど、まさかこの映画を観ながら、2016年の今の日本ならではのタイムリーな“あの話題”に思いを馳せることになるとは、思いもよらなかったのね、最初は。
 そして、それに追い打ちをかけたのが、ひとり酒の勢いを借りて、続けて次に観ちゃった(笑)映画(こちらは買ったばかりのDVD)。時刻は真夜中(苦笑)。
 それが、1939年に公開されたフランス映画史上に残る名作「ゲームの規則」。ゲームの規則 [DVD]ジャン・ルノワール監督のこの作品、ジャンルではこちらも一応ラブ・コメディと言われているけれど、コメディタッチの色合いは無くて、とにかくたくさんの登場人物が入り乱れて織りなされる風刺の効いた群像劇という印象の強い映画。こちらも俺、大学生の頃に名画座で観て、当時はその目まぐるしい展開に只々茫然とするばかり(「すげえ・・・。」みたいな(笑))だったのだけど、大人になった今、改めて観直してみると沢山の新たな気付きがあって、とても新鮮で面白かった。そしてこの映画でも、観ながら俺がまず考えたのが“あの話題”、だった・・・。
 さて。“あの話題”とはいったい?
 そう、ベッキー、そして宮崎議員と続いた、「不倫問題」ね。俺が週末に続けてみたクラシカルな名画2本、その共通のテーマが「不倫」だったのだ。
 まず「アパートの鍵貸します」では、Jレモン扮する大企業に勤める独身サラリーマンが、自分の住むアパート(注:日本で言うところの「アパート」とは作りも広さも随分違いますよ!)を、ひょんなことから上司に不倫の密会場所として提供したことから始まるドタバタ劇で、Sマクレーン演じる憧れのエレベーターガールが社長の不倫相手として自分のアパートに来た、というのがオチ(というか、そこから話がどんでん返しの展開に・・・)なのね。そして驚くなかれ、社長をはじめ彼のアパートの鍵を拝借して“しっぽり”な上司は5人もいたりするのだ。そのお蔭でJレモン扮する主人公は、アポイント調整に右往左往するわけだけど、その功績を買われて(苦笑)あっという間に執行役員に上り詰めるのだ。まあ、そのあとのストーリー展開がまた泣かせるのだけどね。
 一方の「ゲームの規則」。こちらのテーマは、一言で言ってしまえば「フランスの貴族階級の乱痴気騒ぎ」。“ゲームの規則”というタイトルには、色恋沙汰に規則は有るのか?(無いでしょ?)というアイロニーが含まれているわけ。そんなわけで、貴族の館に集まったハイソな面々が、既婚者・独身問わず入り乱れて(男色家らしき登場人物もいるが、さすがに詳細は描かれていない)ただひたすら色恋沙汰に現(うつつ)を抜かす姿が、芸術的なカメラワークと緻密な脚本で終始、高いテンションを保ったまま展開していくこの映画。
 とにかくヒロインの女(貴族の領主の妻)が、結局誰のことが好きなのか自分でもわからなくなるほど、あちこちの男にモーションをかけて「ジュテーム」と言いふらしまくるわけ。ただ厄介なのは、それがこのヒロインに限らず、登場人物の多くがその傾向にある、ということ。つまり皆がみな“恋多き女(男)”であると同時に、それは明らかに「社交辞令」でもあるのだ。夫婦はお互いに、相手の不倫を知りながらそれを許し、不倫相手さえも“社交辞令で”許そうとする。ある意味、規則などないようでいてその裏で目に見えぬ規則がしっかり存在しているような、マカ不思議な世界がそこにあるわけ。
 第二次世界大戦を控えていた当時、社会から隔離されたような生活を謳歌していた上流社会を風刺しようとしたジャン・ルノワールの誇張も、多分に盛り込まれているとは思うけれど。
 
 以上、週末に観た2本。かたや、55年前の映画。もう一本は、さらに20年遡ること、なんと76年前!!!の映画なのね(きゃ〜〜)。
 こんなに古くから、人々は不倫問題を抱え、苦しみ、憎み、一方で密かにそれを愉しんできた、ということね。
 そしてそんな2本の映画を続けて観て俺が強く感じたこと。それはね。
 昔は、大らかだったな〜〜と。つくづく。(ちょっとだけ、バッシングされたベッキーがかわいそうになった。)