究極のワン・ノート・ソング〜スピッツ「リコリス」

 先日、飲み屋で会った30代の子と音楽の話で盛り上がって、どんな曲を聴いて育ったの?(笑)なんて訊いたら、出てきたのが「スピッツ」だった。へえ〜!なんてビックリしてしまったのだけど、考えてみればスピッツが「ロビンソン」ロビンソンでブレイクしたのはもう20年前だものね。10代の多感な時期にスピッツを聴いていた子たちが、2016年のいま30代のいいオトナになっていても当たり前のハナシであって。そんなことに驚いているこっちの方が、彼らにとっては“へえ〜!”なんでしょうネ。
 そんなわけでスピッツ。たまにCDラックから取り出して聴くたび、草野マサムネくんの茫洋とした独特な声と独特な詞の世界観で、その揺るぎないスピッツ・ワールドにいつでも誘(いざな)ってくれる“タイムレス・バンド”。本当に、聴くたびに時間を飛び越えていつでも「或る空間・或る時間」にワープさせられてしまう“強力な磁気”が彼らの音楽の中にはあるような気がする。
 導入として敢えて「声」と「詞世界」を彼らの魅力のように書いたけれど、hiroc-fontanaとしてはスピッツ最大の魅力は、なんと言っても草野くんの紡ぐ「メロディーの素晴らしさ」、それに尽きるような気がする。一聴するととてもシンプルなようでいて、実はアイデアに溢れていて、それでいてしっかりと日本人の心の琴線に触れる“哀愁”が必ず盛り込まれている。
 今回紹介する曲「リコリス」は、まさにそんな一曲で、2004年のシングル「正夢正夢カップリング曲で、2012年のアルバム『おるたな』にも収録された作品。こちら、メロディがとにかくシンプル、というより、なんとサビが一音でず〜っと続くという究極のシンプルさ。
 サビの「ふ〜れ〜あ〜う〜こ〜と〜か〜ら〜 は〜じ〜める〜」というメロディーがず〜っと“C#”の二分音符で作られているのね。これ、例えばメロディーだけをピアノで弾いて誰かに聴かせたら完全に「♪な〜んみょ〜ほ〜れん〜げ〜きょ〜」よ(笑)。それがね、草野くんマジックで、何とも爽やかで心地よい風が吹いているようなメロディーに聴こえるわけ。タネ明かしをすれば同じ音(ワンノート)の裏で、細かに刻むベースを中心に、コードが「DM7 →A →E →F#m →DM7 →C#7」と規則的に動いているからであって、そのコードの中で“C#”の音が絶妙な活躍をしているわけ。サビの一見単調な音の流れの中で、ある瞬間は清涼感・ある瞬間は寂寥感・ある瞬間にはノスタルジックな幸福感・・・聴いているだけで無意識にさまざまなフィーリングに包み込まれてしまう。こんな曲、草野マサムネさんにしか作れません、ホント。
 とは言ったものの、実はジャズ・ボサノバ界の巨匠、アントニオ・カルロス・ジョビンさんの「ワン・ノート・サンバ(Samba de Uma Nota Só)」という名曲がありまして、こちらは冒頭の主旋律からずっと同じ音で構成されていることで昔から知る人ぞ知る、という感じのスタンダード・ナンバーなのね。ひとつの音の連続から次のフレーズでは別な音の連続に移って、また同じ音に帰ってくる。聞くところによればこれはまさに恋人同士のことを音で表しているのだとか。
 「ワン・ノート・サンバ」しかり、シンプルであるからこその「オンリー・ワン」。草野さんが創るスピッツの音楽を聴いていて、本当にそう思った。
(残念ながらオリジナルの「リコリス」動画はありません。“なんちゃってスピッツ(笑)”の中ではこちらがわかりやすいのかな?なんて思いますので、この動画で曲の雰囲気を味わってみて下さい。)
 参考:「ワン・ノート・サンバ」

 おまけ。これもワン・ノート・ソング、かもね(笑)。
ピンク・レディー「DO YOUR BEST」