怒れ若者?いや、怒るな、高齢者。

 人は年齢を重ねるにつれて人柄が丸くなって、穏やかになる、とか。よく言われることだけどね。
 それは、嘘よ!
 五十路を迎えてつくづく、そう思う。
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 先日、ちょうど帰宅の時間帯の電車が架線事故か何かで遅れていて、駅で長い時間待たされた挙げ句、やっと来た電車も満員。とりあえず一台見送って、やっと次の電車が来たと思ったら、アナウンスで「この電車は予定を変更して当駅止まりになります。お急ぎのところ、大変申し訳ありません。」ときた。
 駅で電車を待っていた乗客と、急に終点が変わって電車を降ろされた乗客で、駅のホームは立錐の余地ないほどになり、さすがに俺、プチっとキレてしまって。改札に直行したのだ。
 反対方向の電車はフツーに走っているのだから、まずは逆方向から途中駅までの折り返し運転の電車を寄越して、このあぶれた人たちを運ぶべきだろう!って。だいいち、ホームは人で溢れて危険だぞ!って。
 駅員にそう言ってやろうと思ってね。
 でも、改札にはすでに先約がいたのよね。窓口の駅員に大声で文句言っているオヤジが。
 そのみっともない姿と、“自分に言われてもな…”と明らかに困り顔の駅員を見たら、すっかり怒りの気持ちが吹き飛んでしまってね。
 結局は肩を落として大人しく振替輸送キップを受け取り、改札をトボトボ通り過ぎるもうひとりのオヤジが・・・。
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 一説によると、加齢と共に前頭葉の働きが衰えて感情のコントロールが難しくなり、高齢になるほど怒りっぽくなるのだとか。うん、わかる気がする。最近何かにつけキレ易くなっている俺(間もなく53歳)。通勤の混雑した階段でノロノロと歩きスマホして人の流れを滞らせている若いリーマンとか。満員電車の中で座っている俺の足を踏んずけたくせに、邪魔な足を出してたお前が悪い、みたいにこっちを睨んでくるバカ女とか。いざ一歩外に出れば、無神経で自分本位な人々に次々とすれ違うことになり、朝から晩までキレっぱなしなのだ。
 ただその一方で、加齢で大脳皮質にも皺が多くなるぶん、分析的に物事を捉えられるようになるから、当然の結果として気が長くなるという話もあって、そう単純な話でもないようで。ある調査では、幸福度は高齢者ほど高いという結果も出ているらしい。
 いざ振り返ってみれば自分の場合も、そうした怒りを感じるのは専ら、見ず知らずの他人であったり利害の対立する存在だったりするわけで、その相手が身近な人物、例えば友人たちや同僚だったりすると、ほとんどの事を許せてしまう、というより怒りを全く感じなかったりするのだ。
 つまり、身近な人間関係においては、若い頃と比べると明らかに、円滑かつ幸福な関係が築けている。ある意味それは、他者への過度な期待や自分自身へのこだわりが解けてきたからこそ得られる境地で、あきらめの一種なのかもしれないけれど。
 俺が日ごろ感じる怒りは、よくよく考えればストレス社会とほとんど中身は同じものであって、そう言えば、旅行先でリラックスしている時は、人混みの中にいてもそれほど怒りを感じないな、と。
 もし、穏やかな気候の人里離れた土地で、好きな仲間に囲まれて老後を過ごせたら、それはもしかしたらとても幸せに満ちた老後になるのかも知れない、なんて思えた。(素敵な思い出に抱かれつつ、一方でそれをどんどん忘れながら・・・おいおい。)