どっぷりゴロー・ワールド その2

GORO THE BEST '96
 ボーカリストとしてのゴローさんは、独特のビブラート唱法とか、必ずサビで出てくる高音の「泣き節」が印象的すぎて、一般的にはあまり洗練されたイメージはないように思う。(「スタ誕」にも出ていたクロベーとかいうタレントがオーバーにモノマネしてたっけ。)確かに、強いビブラートや、音の終わりに軽く声を抜いてファルセットになっていくところなんかは、演歌、とりわけ森進一の歌唱法に共通するかもしれない。しかし、芯がしっかりしたハイトーンボイス&泣き節で歌われるその歌謡ポップスは、のちの久保田利伸そして平井堅あたりに引き継がれている、とするのは野口五郎に肩入れし過ぎだろうか?演歌的な歌唱法をポップスに消化して現在のボーカリストたちに橋渡しをした、という意味でゴローさんの功績は小さくない、と俺は思うのだけど。
 さて、個人的にゴローさんの曲でお気に入りの曲は以下。
1.季節風(77年7月 詞 : 有馬三恵子 作・編曲 : 筒美京平
 74年の大ヒット「甘い生活」は、題名通りヨーロッパの映画音楽を思わせるドラマチックな名曲だが、この「季節風」もその流れを汲んだ曲。本人主演の同名映画主題歌である。筒美先生のお遊び?と思いたくなるような複雑なメロディーラインをゴローさんは、はじめはしっとりと、サビではドラマチックに見事に歌い上げる。エレピのイントロ、流麗なストリングス、B・コールドウェル風に要所で効果的に絡むブラスなど、アレンジも聴き所満載。夏のヒット曲だが、息苦しい真夏の季節風をイメージさせるような、けだるいサビのメロディーも素晴らしいと思う。
2.グッドラック(78年9月 詞 : 山川啓介 曲 : 筒美京平 編 : 高田弘)76年の「きらめき」とこの「グッドラック」はゴローAORの2大巨頭。素晴らしいメロディーにゾッコン!ウェストコーストとまでは行かないが、メジャーキイの曲でこのオトナのポップス路線がピッタリはまった日本人歌手は、この時代、野口五郎だけだったんじゃない?チャートでの成績は芳しくなかったようだけど、きっと時代がついていってなかったのかもね。ところでこの曲では珍しく(?)男らしくハードに決めたゴローさんのボーカルが聴ける。バリーホワイトみたいなミエミエのアレンジにはちょっと興ざめなんだけど、このアレンジやっぱり筒美先生ではなかったのね。妙に納得。
3.夕立ちのあとで(75年7月 詞 : 山上路夫 作・編曲 : 筒美京平ちょっと足を踏み外したら「演歌」のドロ沼にはまりそうな叙情フォーク路線、というのもゴローさんが得意としていたところ。この曲以外にも76年の「女友達」、79年の「送春曲」などがある。(ゴローのお兄さんが作曲した「女友達」は「みちのくひとり旅」にそっくりだったりする。こっちの方が先だけどね。)やっぱり演歌出身のゴローさんの歌の巧さが一番発揮されるのがこのジャンルだ。この曲はメロディーパターンが2パターンしかなくて、とてもシンプルな構成ながら、じわじわと盛り上がるアレンジと、それに乗るゴローさんのボーカルが素晴らしい作品。ゴローさんが醸し出す女性的ともいえるしっとりとした情感が、ちょっと中期の山口百恵を彷彿とさせる。
 ホント言うと、76年秋の「針葉樹」から77年の「むさし野詩人」〜「沈黙」〜「季節風」〜「風の駅」まで、筒美京平が関わったマイナーAOR歌謡の5連発はどれも好き。この5曲はすべてアレンジが筒美先生。「沈黙」のツインギターは「ホテル・カリフォルニア」だし、「風の駅」のイントロはもろ「ストレンジャー」。ボーカル的・メロディー的に見ればベタな歌謡曲なのに、アレンジ的には70年代の洋楽の香りがプンプン。センス良いのか悪いのか分からない、だけどやっぱりかっこいい曲たち。そんな微妙なバランスを持ったこれらの曲たちはJ−POP史の中でもオンリーワンの存在と、俺は思う。詞の方も、松本隆喜多条忠、有馬三恵子といった錚々たるメンバーがリレーしていて、本当に「贅沢」という感じだ。
 ゴローさんの曲にどっぷり浸かって、「これぞ歌謡曲の実力」というものを感じてみてはいかが。